「晋助さまぁ、いつあっちに合流するんスか?」
轟々と鳴り響く大きな飛行船の中の一室。
過激派攘夷、鬼兵隊は仲間が潜む歌舞伎町の廃屋へと向かっていた。煙管を咥え、愉快気に笑っているのは高杉晋助。
「そう急くな。明日の夜明けまでには着くさ。」
「それにしても、晋助様らしくないっスね」
窓越しに蒼空を見ながら、そう問えば余白を置いて、怪訝そうな声で高杉は答えた。
「何がだよ」
「今まで桂一派だった奴等を仲間として迎え入れるなんて……」
「それもそうでござるな、いったいどういう心境の変化だ?」
万斉の弾いていた心地よい三味線の音が途切れ、みるみる船内は静粛に包まれる。
皆、返答を急くことはせず、只黙って高杉を見つめた。
「何、いいじゃねぇか。わざわざヅラんとこ抜けてこっちに衝くってんだ。いい戦力だろォ」
「でも、要は裏切り者達っス、信用出来るんスか?」
「確かに」
また子等がそう言えば、高杉はクックと笑った。
「これからの戦いは以前にまして激しくなるだろうよ。──俺だって失いたくないものくらい、あるのさ」
戦いが激しくなれば、多くの味方が死ぬ。一度絶望に落とされ、立ち上がってできた大切な仲間を失うのが、高杉は嫌だった。
また子達には、生きていて欲しいのだ。
新しく加える仲間は、そうならない為の身代わりの駒にすぎない。
むくーっと頬を膨らませ、また子は唇を尖らせた。
「もう……晋助様はいっつも訳解んないことばっか言うっス。」
「解らなくていいさ、知りたきゃ最後まで俺についてくるんだな」
「……当たり前っス」
「同感でござる」
べん、べべんと。
哀しみにも喜びにも、狂気にも似つかぬ様な三味線の音色が、再び響き渡った。