死んでいるのかと思う。
まさかそんなはずないのに、不安感が胸を過ぎり、つい寝転がっている坂本の肩を掴んで揺さぶった。すると軽く呻き、坂本は薄く目を開いた。

「何じゃあ…気持ち良く寝ちょったのに」

ぶちぶちと寝起き特有の愚痴をこぼし、睡魔に勝てないのか再び坂本は目を閉じた。

「おい、坂本…」

何度も声をかけてもいびきが返ってくるだけで反応がない。
静かな部屋に、二人いるのに一人になった気分になる。別に寂しい訳じゃない。

(だりぃ……)

また今日も、一人死んだ。
瞼を閉じ横たわっている隊士はまるで眠っているようだった。でも、そいつに声をかける勇気などなく遠目に死体を処理している桂の後ろ姿を見ているだけだった。

ザワリとまた胸が騒いで、坂本の顔を覗き込む。
荒く呼吸をして眠る彼からは、全く死んでいる等と想像は出来ないのだが。
(アホ面…)
もしもを考える。今まで受けた傷が急に開いたら、いきなり病に襲われたら、心臓発作を起こしたら…目の前の彼はいとも簡単に深い眠りについて、二度と起きないのではないかと。

「坂本、起きやがれ」

軽く頬を何度か叩く。
すると坂本は眉間に皺を寄せ、顔を横に背けた。それでも起こすことを止めない彼に痺れを切らし、坂本は目を閉じたまま話し掛けた。

「……晋坊、ワシは眠いち、暫し放っておいてくれんか」
「そろそろ、起きろよ」
「さっき眠ったばっかじゃけえ…。堪忍してくれ」
「お前に俺の前で眠られんのは不愉快なんだよ」

だから、と呟き坂本の肩をバシバシと攻撃する。現しようのない感情が込み上げてくる。瞼をはっきりと開き、坂本は高杉を見据えた。案の定、彼は怒っている表情などしてはなく、不安げな表情を浮かべていた。

「何ぞそげな顔しちゅうがか……?」
「あぁ?」
「ほら、笑うぜよ」

坂本は上に手を伸ばし、自分を見下げている高杉の両頬を掴んで引っ張った。
なすがままにされる高杉を見て、坂本は不安になる。

「ほんに、おんしらしくない。ワシはおんしの頬引っ張っちゅうのに怒りもせん」
「別に」
「……辛いか?」

(どうなんだろう)

人を殺すことにも天人を殺すことにも、もう慣れた。
何度も仲間が死ぬ姿を見てきたし、裏切った仲間を手に掛けることさえあった。そんな自分が辛いなどという普通の感情を持ち合わせてるのかさえ不明だ。

ただ、最近。
人が眠りについてるのを見ると酷く動揺してしまう。

(辛いっていうより)

「……怖いんだ」

一度目を閉じて、二度と戻ってこない奴らを山ほど見てきたから。

「ワシらは死なんよ」
「…馬鹿みてぇ」

そんな口約束を信じられる筈もなく、高杉はその日から桂や銀時、坂本や他の隊士が眠っているのを発見すると容赦なくたたき起こした。

それだけ、大事な人にいなくなられるのが、怖かった。




end.



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