銀時にはどうしても確認したいことがあった。最近はめっきりその問題について悩まされているものだから、よく眠れず心なしか体調が悪い気もしている。そこで偶然にも沖田に会ったので、その原因を捕まえて証明する方が早い解決策だと考えた。運良く神楽達も出かけていたので、スーパーを出た後に沖田を万事屋に招き入れた。

「お邪魔しやす」
「神楽達はいねえから」
「言われなくても」

こんなに静かな空間に奴らが居る筈ないと言い切り、沖田は靴を脱いだ。
ここに一人で来たことがあるのは片手で数える程度しかなく、部屋を案内した訳でもないのに沖田は迷わず颯爽と備え付けの台所へ向かった。銀時も急いで後を追う。

「旦那ぁ、どこに置きますか?」
「そこの冷蔵庫と食器棚の間に立てかけといて」
「分かりやした」

こうしてると何だか今まで一緒に暮らしてきたみたいだと銀時は思う。まさかそんなはずないし、これから先も有り得る話しではないのだが、そう考えるとどうしてか胸がほわんとした。

「旦那のも寄越して下せぇ」

沖田は自分が持っていた米を素早く片付け、銀時が担いでいる米も寄越すよう急かした。

「悪いね。あ、沖田君それ終わったら居間にきてね」

沖田が軽く返事をしたのを確認してから、銀時は冷蔵庫からバニラアイスバーを取り出し、居間へと向かった。
癖でソファに豪快に仰向けに寝転ぶ。長い溜息をついているとくすりと小さく笑う声。
反った首を上げ、見てみると沖田がソファの背もたれに体を預けてこちらを見ていた。

「…そっちのソファに座れば?立ったまま食うの?」
「あっち、なんか白い犬の毛がたくさんあるんで嫌です。でも座りたいんで…旦那が少し足を曲げてくれれば助かるんですけどねぃ」
「わーったよ。ったく…」

銀時は渋々膝を曲げて、ひとひとり座れるスペースを作った。そこに遠慮なしに腰をかける。銀時に手渡されたアイスバーの袋を開きながら沖田は時計を見た。

「もう2時かあ。旦那、この報酬食い終わったら俺帰らせて貰いやすね」
「おー…、助かったよ。サンキューな」
「まんまと嵌められた気がしますがねぇ」
「バレてた?」
「舐めないで下せぇよ。俺はあえて引っ掛かったんですぜ」
「そりゃどうも」

一枚上手だったかと銀時は苦笑する。わざと誘導してると分かっていても、ガキだと馬鹿にされるのは沖田のプライドが許さなかったのだ。
心の中で舌打ちをし、アイスバーを頬張っていると怪訝そうに沖田は顔をしかめた。

「寝ながら食べるの、大変じゃないですか?おきりゃいいのに…顔、べとべとになりやすよ」「別にー?むしろ甘いもので顔べとべととかウェルカムだわ」「あ、今俺若干引きました」
「いくらでも引けコノヤロー。こっちはそんなん慣れっ子なんだよ。もう食うの大変だから沖田君にこのアイスあげちゃう」「意外とデリケートなんですね旦那」

引かれんの嫌なんですねやっぱり、と言うと沖田は差し出してきた銀時の腕を掴み、先の溶けかけているアイスを一舐めして口に含んだ。咥内の熱でアイスは容易に溶け、液体化したそれはつぅ、と沖田の顎を伝う。

その光景に銀時は息を呑む。

「普通…手で受け取らない?」「ふあ?ひふもほうはんへ」

溶け切らないアイスを口に含んだままもごもごと沖田は喋る。そんな沖田にさえ、銀時は自分でも理解しがたい感情に再び襲われた。

「…何?食ってから言えって」「……っと。ごちそうさまでした。いつもこうなんでって言ったんでさぁ」
「いつもって?」
「土方さん、甘いもの苦手なんで良く余りを貰うんでぃ」

(――また、土方だ)
銀時は強く奥歯を噛み締める。スーパーで違和感を感じたが、それは沖田の隣が土方ではないからで。つまりは沖田の隣は土方と認識してしまっているわけで。胸がざわついた。

「じゃ、俺はもう行きますね。お邪魔しやした」

口の周りを軽く手で拭き、立ち上がる沖田の腕を咄嗟に掴んだ。お互い、ハッとしたのが分かった。

(おいおい、何してんの俺?)

「旦那?」

沖田は怪訝そうな表情をして銀時を見つめた。銀時自身も自分のことをそのように見つめたい気分だ。何故このような行動をしてるのか…誰かに尋ねたい気持ちでいっぱいだった。

ただ、分かることは、自分は明らかに“嫉妬”という感情を今まで沖田の周りに向けてきたのだと思った。現に土方の話題には、殺意すら覚えるほどの焦燥。これで確認出来たじゃないかと自嘲する。

「旦那、離し……」
「……帰らせない」

(なんだ、そういうことか)

それならもう話は早い。
今すぐに彼をめちゃくちゃにするだけのこと、だ。


(そして土方に見せられないくらい俺を刻み付けて、俺だけのものに)

銀時は静かに微笑んだ。











end.

ヤンデレ坂田。



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