--------------------------------------------------------------------------------

今月分の残金は約二万と少し。パチンコで奇跡的に勝利し、何とか収入は得たものの、家には一度に米三合を余裕で食べる怪物がいる。しかも白くて大きい犬付きだ、そしてこちらも大食いときてる。
飼い主に似るっていうけどさ、そこは別に似ない方が俺的にはいいんだけど。と、銀時は頭をくしゃくしゃと掻いた。

何とか節約しようと激安スーパーに来てみたが、どう考えたって足りない。
卵二パック百円は安い、安いが今は百円すら出したくない。あれ、何だか目から水分出てきそうだと銀時は目を軽く擦った。

「……あれ?」

前から見覚えのある二人組がやって来た。私服だ。カゴの中を見る限り個人的な買い物らしい。銀時の視線に気づき、蜂蜜色の髪をしている彼はパッとこちらを見た。

「旦那ぁ、何してんですかぃ」「あっ奇遇ですね」

沖田に続き、隣にいる山崎もこちらに気づき会釈してきた。何とも微妙な組み合わせだ。

「よ。何してるも何も…買い物以外ここで何すればいいんですか俺は」

そう言うと沖田は魚肉ソーセージの試食コーナーを指差した。

「あれを食べにきたとか」
「ホームレス扱い?」

何て失礼窮まりない。しかも後一歩でそうなりそうな身なので、冗談でも笑えない。そんな心情を察したのか沖田は銀時の足元に積んである米を見て、口を鳴らした。それはそうだ。米四十キロも買うのだ、万事屋にしては大出費すぎる。

「それ全部買うんですか?」
「怪物娘が育ち盛りなんだそうだ。おたくらこそ、それ全部買うの?」

銀時が指差したのは山崎が持つ買い物カゴの中にある大量のマヨネーズ。もはやそれはかなり積み上げられていて、今にも崩れそうだ。山崎は苦笑いをし、頬をポリポリと掻いた。

「いやあ…副長が買ってこいっていうもんで。かなり食べ…ん?飲む?あれ、食べる?」
「飲んでまさぁ」
「そう、飲むんです」
「いやどっちでもいいけど」

というか、土方が自分で買いに来ればいいじゃん。と言えば、そういう訳にはいかないんですと返された。

「今は忙しい身なんで…出て来る暇がないんですよ。幸い俺らは今日非番ですし」

何だかんだいっても、やはりこいつらは土方のことを悪く思っていないのだと思う。
本当に嫌っていたりするなら、わざわざこんなことを忠実に従わないだろう。
(だってマヨだよ、マヨ)
他の命令なら分かるが、買い物が命令だったら自分は間違いなく無視する。

「俺は菓子買っていいって言言われたからついてきたんですぜ」

一瞬心を読まれたのかと思い、銀時は吃驚した。だが、勘違いされては困るという沖田の感情からの発言だと気づき、息をつく。沖田はどうやら自分も土方の為にここまで足を運んだと思われるのが嫌な様だった。
まるで小学生みたいだ、と銀時は苦笑いをした。

「…なあ、この後ヒマ?」

沖田はキョトンとした顔をした。余程意外だったのか、再度尋ねてきた。

「珍しい。いつもは厄介払いするくせに…熱でもあんですかぃ?」

まじまじと目を細めて馬鹿にしたような口調に腹立ち、沖田の頭部に軽い音が出る程度に打撃を加えてやった。
それをさも、見慣れたかのような態度で二人の様子を見ている山崎に不審さを覚え、銀時は首を傾げる。そんな山崎の視線に沖田は照れたような困ったような笑みを返した。
(あぁ…そっか)
いつも沖田の隣にいる彼と、同じ行動をとってしまったのだ。そうされることは山崎にとっても沖田にとっても日常茶飯事な訳で。そう思うと、心に気持ち悪い黒い霧が広がった。

「あ〜なんか…糖分たらねぇのかな」

苛々する。

「旦那はどれくらい食べれば足りんですか。糖尿病になりやすよ?」
「んなの覚悟の上の甘党だボケ。それで…ヒマなの?」
「…まだ言ってら。俺はヒマですがザキは雑務がまだあるんで無理ですねぃ」
「まあ、洗濯とかですけどね」「ガキじゃねーんだから…別に誰か保護者いなきゃ駄目じゃないだろ?」
「どういう意味?」
「…そういう意味」

自分より低い身長の彼を見下ろしてそう言い放ち、薄笑いを浮かべれば沖田は少し顔をしかめた。

「馬鹿にしてやせんか旦那」
「別に?無理ならもういいわ、んじゃあな」

踵を返し銀時は沖田に背を向けた。じゃあ、行きましょうかという山崎の声が聞こえる。足音が二つ次第に離れていったのを確認して、銀時は足元の大量の米に手をかけた。

「よっこらせっと…」

まずひとつ、肩に乗っけた。と、同時に軽い足音が聞こえてきた。それは急いでるような音ではなく、静かに冷静に床を踏み締めて歩いてくる音だった。

「――待ちなせぇ」
「……何だよ」

ゆっくり首だけ動かし後ろを振り返って見てみると、そこにはバツが悪そうな表情をした沖田が立っていた。

「それ、全部一人じゃ持てないでしょうから特別に手伝ってあげますぜ」

(引っ掛かってくれて…まあ、)

「山崎は?」
「先に帰らせます」
「沖田は、いいの?」
「ヒマなんで」
「あ、そ。いやあ悪いね」

何故、銀時に誘いを受けているのか沖田は理解できなかったが、ガキだと舐められたままじゃ帰れない。まるで近藤や土方、山崎達が保護者で自分は子供だと言うような態度と口調がカンに障った。

「二袋も持てっか?」
「旦那こそ、ギックリ腰には気をつけてくださいよ」

華奢な体には似合わず、沖田は軽々しく米を両肩に担いだ。
そしてそのままスタスタとレジまで持っていく。
銀時もそのあとを追い、手早く会計を済ませ、スーパーを後にした。


続き

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -