姉上を亡くしてから、俺は人を斬ることに前よりさらに躊躇するようになっていた。
男ならまだいい。男を庇って飛び出してきた女を斬る時なんか最悪すぎる。そういう時は大抵戻してしまうか、震えが出てきてしまう。
――思い出してしまうのだ。
そしてさらに血が欲しくなる。自分の中に生まれた弱さを掻き消すように、今度は人を斬りまくる。永遠と永遠と、
泣き止み方を知らない赤子のように――

 今夜の捕物は薬の取引をしていた組織で、かなりの人数だった。一番隊を筆頭に斬り込んだが、どうやら酒盛りの途中だったらしく女が数人いた。仕草や動作からさらわれてきた訳ではなく、仲間だと判断した。

俺が刀を振り上げた瞬間、男は何食わぬ顔をして自分の隣にいた女を前に突き出した。
何故、腐った悪い奴らは女を盾にする?死にたくないが為に犠牲にするなんて最低最悪だ。
そしてそれを斬る俺もまた、

「――総悟っ!!」

甲高い悲鳴と共に生暖かい鮮血が俺の顔にぴしゃりとかかった。何かが切れる音がした。


 「っはあ…はあ…!」

屯所に帰ってきて真っ先に風呂場へ連れていかれ頭から水を思い切りかけられた。グッ、と気持ち悪いものがせりあがってきて思わず口を手で覆う。

「…無理してお前が斬ることねぇって何度言や分かる」
「うっ……せぇ…!」

土方は座り込む俺に再び水をぶっかけ、グイッとスカーフを掴んで顔を上に向けさせた。冷静な表情をしているが、あきらかに瞳に怒りが篭っている。

「他の奴に任せるか俺に任せるか。それかなるべく女は斬らず無傷のまま捕らえる。そう言った筈だ」
「離せ、苦しんでさ…っ」
「――聞け!」

怒鳴った声が風呂場に静かに反響する。先程のかけられた水が流れていくのを視界の端でとらえ、その水が赤く染まっているのを見て、自分にかなりの量の返り血が付いていたことを知った。

「何に反発してやがんだお前は……。我慢なんかしなくていいんだよ、分かってんのか?」
「ほっといて下せぇ……!」

血を見てまた興奮状態になってしまう。声が徐々に荒くなってきて、息が小刻みに漏れる。
人の命が刃の先で微かに、そして確実に震えていたのを思い出す。
平常心なんか保てるはずない。

「とりあえず落ち着け…」
「黙れ!!もうどっかいけっ……!!」
「総悟!」

軽く錯乱して、俺に差し延べられた手を勢いよく跳ね退ける。しかし今度は肩を掴まれ、思い切り引き寄せられた。

「……っ!」

がっちりと土方の胸の中に捕らえられてしまい、いくら身じろぎしても離れられない。

「熱ぃ…」

土方は、ハッとしたような声を出した。

「総悟、興奮しすぎだ。体熱すぎるぞ……?」
「……あんたが、こうしてるからでしょうが……!」
「これくらいでこんなに体温上がるはずねえだろ」
「だから、どうだってんでぃ…!部屋で寝れば治りまさぁ。さっさと離して下せぇよ!!」
「……しょうがねえな」

土方のその言葉を聞いて、てっきり解放してくれるのだと一瞬張り詰めた気を緩めた。
だが、甘かった。
土方は腕を俺の腰に移動し、無理矢理押し出すように肩を押し付けてきて、あっという間に俺の体は浮いてバランスを崩した。そして後ろに傾いた俺をがしりと抱き抱えた。

「ちょっ…!!」

膝裏と腰を落ちないように固定され、じたじたと手と足を動かす。

「降ろしやがれ馬鹿土方っ!何する気でぃっ」
「何するも……部屋に行きたいんだろ?」

澄ました顔をして土方は俺を抱えたまま、すたすたと歩きだした。向かってるのは明らかに俺の部屋ではなく土方の部屋。
電気も点けずに、土方は部屋に入りあらかじめしいてあったであろう布団に俺を降ろした。
――嫌な予感がする。

「…何のつもりでさぁ」
「お前の熱を処理する」
「…ここ俺の部屋じゃねえんですけど」
「寝ただけじゃ収まらねぇだろ。というか寝れねえだろうよ」「そんなの…」

分からないだろ、と言おうとしたのと同時に土方は俺を押し倒した。急な出来事に思わず抵抗を忘れ、一瞬固まってしまった。

「……思い切り抵抗しろ。爪痕を残してもかまわねえ」

そう言って土方は自分のスカーフを素早く抜き取り、上着を投げ捨てた。

「ふ、ざけんなっ…!変態、何す……!」

するりと服の中に手が侵入してくる。胸の突起を強く押し潰され、捲り上がった服の間から見えるお腹に生暖かい感触を感じた。つー…と上に舐められ、思わずびくんと反応してしまう。

「やめっ…嫌だっ…!」

もう、抱かれたくない。
武州を出てから俺は…いや武州にいるときから俺は姉上を裏切っていた。

土方を好きと言う姉上。
俺を好きだと言う土方。

――どちらも取れない、
ずるい俺。

「あっ……」

口でジッパーを噛み、ズボンを下げる土方を何とか阻止しようと思うが胸の突起を執拗に弄られ力が入らない。
パンツも脱がされ、あらわになった下半身の間の性器をネトリ、舐められる。気持ち悪い舌の温度が腹立つくらい気持ちいい。
先をしつこく刺激するものだから、淫液がぽたりぽたりと滴り落ちる。

「んっ、あっあ…!や、土方さっ……!」
「総悟…手ぇ、回せ…」
「あっ!」

中に、指の感触。
ぐちゅりと掻き混ぜられ、痛さと快楽が入り混じる。
前立腺を押され、込み上げてくる凄まじい快感に嬌声を抑えられずあげてしまう。
ああ、この先はだめ。――そう思ってもそれは口に出来ない。

「ひゃっ…あっああっ!あん」「っ……!」

土方が俺の中に入ってくる。
熱くて、中から溶かされそうで、怖いくらい。

「土方さっ…土方さん!んあっ…あっ、あぁっ…んんっ!」
「総悟っ……!」

背中に思い切り爪を立てる。土方は苦痛に顔を歪め、それでも律動は止めず俺を穿ち続けた。

姉上、ごめんなさい。
一人置いていって、土方さんを取ってごめんなさい。

女を斬る度に姉上が目に映る。姉上がそんなこと思うはずないのに、責められてる気がして罪の意識に押し潰されて。
だけど、そんな弱い自分を周りに見せたくなくて。

「んあ、ぁっアアア!」

快感が絶頂に達して、勢いよく白濁が飛び散る。流れてる間も土方は弄るのをやめなくて、さらに敏感になった俺は小刻みに声を漏らす。
背中に回した手が汗と、引っ掻いたことで出た血でヌルリとぬめる。

「あっ…ごめ…」
「総悟……?」
「ごめんなさ…土方さんっ…」「俺が傷つけてもいいって言ったんだ、謝るな」
「違う…違うんでさっ…!」

姉上を置いてった時も、姉上が死んでしまった時も。
あんたは、“俺のせいだ”と感じてるんでしょう。そんなこと有るはずないのに。罪深いのは、俺の方なのに。
――全部、あんたに背負わせるようになすりつけてしまった。

姉上が死んでも尚、俺は裏切り続けるのかと思うとゾッとした。しかし果してそれは、本当に姉上と土方を思ってのことなのか。武州にいた頃から今まで、土方に自分の想いを伝えられないことに対しての、言い訳にしてるんじゃないか。

今更好きと言える程、素直なんかじゃない。

「土方さん……」

せめてこの傷痕から伝わればいい。俺の感じてる罪悪感と、確かにあんたを信じてる事実を。いくら俺が苛んでも、あんたを離したくないということを。

姉上はよく言った。
“愛してるわ総ちゃん“って。

ねえ姉上。
果してこれは愛ですか?








END.



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