どうすればいいのか、解らなくて。
この気持ちがどうしようもなく渦巻いて。
ただひたすらに。
「嘘つき」
「……は?」
街をぷらりと歩いていた俺をいきなり引き止め、何を言うかと思えば。
「何が?俺総一郎君になんか嘘ついたっけ」
いつものマヨネーズ狂保護者は何処だよ、しっかり管理しとけよとキョロキョロしていると、察した様に沖田君は言った。
「つきやした。ちなみに土方さんなら今はいやせんぜ、俺独りでさぁ。残念ですねぃ」
「あー…本当に残念だ。んじゃっ!」
「ちょ!いや、せめて何嘘ついたか確かめるとかして下せぇよっ」
慌てて俺の着物の裾を引っ張る沖田君をうっとおしく思いながら、やれやれとため息をちいた。
実際問題、本当に覚えがない。嘘なんてついてない筈。
「つか、俺嘘なんかついてないからね。今暇なら、土方連れてきてよ総一郎君」
「……嫌でさ」
「あっそ。じゃあもう用はねえわ」
くるりと背を向け、遠ざかろうとした瞬間。
「好きだって言ったくせに」
沖田君から信じられない言葉が発せられた。聞き違いかなともう一度聞き返すが、返ってくる言葉はやはり変わらず。
「は?誰が、誰に」
「旦那が、俺に」
「え?いつ、何処で」
「一昨日の、バーで」
「……ちょっと待ってろ」
一昨日の、バーでだ?一昨日…一昨日……一昨日っつたら独りで飲んでて、それでかなりベロンベロンで……。
「そのバーに来たのって、沖田君だったの……?隊服着てた?」
「はい、行ったらたまたま旦那がいたんで隣りに座りやした。ちなみに隊服は着てやしたね」
──しまった。完璧土方だと思っていた。やけに今日は大人しいなとは感じていたが。
それで、酒の勢いでそのまま言ってしまっていた。“好きだ”と。
でもそれは、沖田君に言った訳じゃない。
「確かに、言ったな。でも……あれは」
「俺に言った訳じゃなくて、土方さんに。ですかぃ……?」
驚いて顔を上げると、意外に平静な表情をしていた。
くしゃりと髪をかき揚げると、独り言の様に沖田君は呟いた。
「ちゃんちゃらおかしいですねぃ……。土方さんは俺が好きで、俺は旦那が好きで。旦那は土方さんが好きで」
しかもアンタ、抱き付いてきて好きだなんて言うから、本気で俺のこと好きになってくれたのかと思った、なんて笑いながら言う沖田君は痛々しくて。
でも、謝ることも、受け入れることも出来なくて。
むしろ、俺は君が憎いんだ。だって君は土方に愛されているじゃないか。
何で上手くいかないんだろう。
俺らは、只、只ひたすらに。愛しているだけだと言うのに──
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続編あります。