"絶対"なんかないって言い切った俺に、アンタは"そうだな"って言ってはにかんだ。




天の邪鬼なくちびる。





「旦那ーぁ、開けて下せぇ」

月が煌々と光る深夜、俺は連絡なしで旦那の家を訪れた。

幸いまだ起きていたみたいで、なんなく二回の窓から進入できた。

「お前ね…連絡してからこいよな」

一杯やっていたのか、ほんのり酒臭い。
甘い、ニオイ。

「連絡やんねぇとヤバい理由でもあんですかィ?女連れ込むとか」

「あ〜あ〜言ってろ。第一神楽いっから連れ込みたくてもできねえよ」

「今日は姐御の家に泊まるって昼会った時言ってやしたけど」

「……お前ら意外と仲良いよな」

しまったという顔をして、旦那はポリポリと頭を掻いた。

旦那は俺の気持ちを知ってる。言ってはないが、鋭いこの男のことだ、気付いているだろう。

「旦那は、男は恋愛対象外ですかィ?」

酒を酌してもらいつつ、そんなことを聞いてみる。聞かずにはいられないのだ。

不安で、胸がはち切れそうで。

旦那は一息ついた後、おかしそうに問い掛けてきた。


「じゃあ、沖田君はもてんの?男に恋愛感情をさ」

「…聞いてるのは俺でさぁ。答えて下せぇよ」

いつも上手く誤魔化されて、あやふやにされて。気付いているなら、その気がないのなら、ハッキリさせて欲しい。



「男…にねぇ。残念、銀さん男は対象外」

俺だって、男が好きな訳じゃない。

震える喉からなんとか声を絞り出して、

「じゃあ……俺は?」

「は?」

「俺、は…対象外?」

なんて意味の解らないことを言ってみる。
だって俺は"男"が好きなんじゃなくて、"アンタ"が好き。

──だから。

「絶対、ねえよ」

そう言ってまたアンタははにかんで。

絶対なんかないって言っていたのに、この唇はまた嘘をつく。

いったい何が本当で何が嘘なんだ?

そして今重なっているこの唇の感触は、

───嘘?







end.



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