そんな気まったく無かった。ただ、ほんの冗談だったのに。





「あれ……?」

 薄暗い部屋の中、俺は虚ろに目を覚ました。頭がズキズキする。数分前まで皆と久し振りに酒を飲んで騒いでいた筈なのに、どうやらいつの間にか自分の部屋に戻ってきていたらしい。

「……土方さん?」

俺の部屋の前の縁側に、誰か座っているのが障子越しに見えた。
寝起きだった為かあまり大きな声が出なかったみたいで、向こう側には聞こえなかったのか返事が無かった。

まだ酒がまわっている身体を何とか起き上がらせ、若干フラフラしながら障子を開けた。――明るい。どうやら今宵は満月のようだ。その光に照らされながら一人酒を飲んでいるのは、やはり土方だった。もう一度先程と同じ大きさで声を掛けてみる。
今度は流石に気付いて、土方はこちらを振り向いた。

「起きたか」

「ええ。ここまできた記憶がサッパリありやせんけど」

「お前が部屋戻るって駄々捏ねたんだよ」

「ふーん…アンタは何で一人で飲んでんですか?」

「そういう気分だったんだよ。お前…声、掠れてるな」

「けっこう飲んだ上、寝てしまいやしたから。喉カラカラでさァ」

水分が欲しい。
とりあえず喉を潤したいのだが、水を取りに行くのが面倒だ。
かといって今、土方が飲んでいる日本酒を飲んでも意味がない。

「あー……」

「言っとくけど、皆ベロベロに酔ってまともに歩けねぇぜ」

「……アンタは?」

「さあ?多分酔ってんじゃねえの」

じゃあ、俺の酔いが醒めるまで待たなきゃいけないのか。それまで暇だ。仕方ないので、俺は渋々土方の隣りに腰掛けた。

「ん」

そう言って土方はお猪口を差し出してきた。これは完璧に酔ってる、人が水欲しがってんのにこの馬鹿。

「はあ…もういいや。俺も飲みまさァ」

一瞬うっすら殺意が芽生えたが、それはいつものことなのでとりあえず良しとした。
諦めて酒を注ぎ、月を見ながらそれを飲む。

「土方さん、最近花街行きやした?」

「最近は…行ってねえな。暇がなくて」

「じゃあかなり色男様は欲求不満な訳ですかィ」

皮肉をたっぷりこめて言ってやった。一時期は本当に花街通いが凄くて、夜はいないことが殆どだった。上京したての頃、近藤さんも一緒に行ってたこともあって俺はいつも独りで長い夜を過ごした。
それが最近めっきり土方は花街へ行かなくなった。急だったから、不思議で堪らなかった。何か変な物でも食べたんじゃないか?って思う程に。

「そうだな……堪ってるっちゃ、堪ってる」

酒が入ってるからか、普段よりも返答が正直で反発がない。今なら何を聞いても答えてくれそうだ。

「…AV女優で誰が一番好きですか?」

「…天衣ミツ」

「ちなみに近藤さんを昔なんて呼んでやした?俺、うろ覚えなんですよね」

「あー…。かっちゃん。かっちゃんだ」

「かっちゃんの初恋は誰?」

「えーと…ほら、桃花だ。向かいの家に住んでた……。でもアイツ俺が好きだとか言い出して…その時はかっちゃんと喧嘩したなあ」

俺は近藤さんをかっちゃんと呼ぶ土方に耐えられなくなり、身体を屈めて声を殺して笑った。腹筋、かなり痛い。暫く質問して、答えてを繰り返していたが、次の質問をしたら打って変わって土方はピタッと止まった。

「土方さん、今抱きたい人って誰ですか?」

「……。」

「土方さん?」

「……総悟」

勿論、今まで抱いたであろう女や遊女の名前が出ると思っていた。なのにあろうことか、土方の口が紡いだのは、俺の名前。
質問が分からなくなるまで酔ってしまったのかと呆れて、俺はふざけ半分で言ってみた。

「…俺は別にいいですぜィ。アンタの好きなようにしなせぇよ」

俺が期待してたのは土方のしかめっ面と、自分が言い間違えたことに対して罰が悪そうにする土方だった筈なのに。

どうして、アンタは今そんなに欲に塗れた顔をして俺を見てる?

ただならぬ圧迫感に俺は逃げるように後ろに下がった。それを土方は少しも尻込みせず、俺の腕を掴み阻止してきた。掴まれてる腕から、この人の熱が伝わってくる。

「いいんだな……?」

嫌だって言って振り払えば済む話なのに。
どうしようもなく土方に触れられてる場所からジワジワ熱が広がって、もう何が何だか分からない。気がつけば俺は、小さく頷いてしまっていた。









「ぁ、んっ……!」

今まで出したことのない嬌声が漏れる。我慢しようにも、あれから土方は俺を押し倒し、手を一度も休めず行為に没頭してるのだ。息吐く暇もない。

「も、そこっ……弄んないで…!」

羽交締めの様に後ろから抱き抱えられ、土方の大きな手は俺の胸の先を執拗にまさぐる。そこを弄って何が楽しいのか。もう片方の手はゆるゆると俺自身を愛撫していて、尖端から先走りが出てクチュクチュと淫らな音が静かな部屋に響く。

「や、あっ……ひじ、かたさ…っ」

やめてって言ってるのに、鈴口をグリグリ揉まれ、また俺は耐え切れず声をあげる。
土方の荒い吐息がうなじにかかり、ぞくりと身体を震わせた。

「――あっ…!?」

急に重みを感じた瞬間、俺は俯せの状態で土方の下にいた。手で押さえつけられているのか上半身を上げることが出来ない。
何、と言おうとしたがそれは直ぐに自分の悲鳴で掻き消された。
――指が、入ってる。後孔に土方の指が数本こじあけるようにして進入してきた。堪らず、痛みと異物感に俺は苦しげな声を出し、抜いてと悲願したが全く聞いてはくれない。

「ふ…っ嫌ァ……」

原理はよく分からないが、中のある一点を触られると怖いくらい気持ち良かった。俺は畳みにギリギリと爪を立てた。そうでもしなきゃ、アッと言う間に快楽の波にさらわれてしまいそうだから。

「総悟……っ」

土方の猛った自身が後孔の入口に触れた。
――熱い。

「あっ…あああっ!」

指とは比べ物にならないくらい大きなものが、グイグイと容赦無しに押し進んできた。
痛みも徐々に無くなり、俺はただ狂ったように喘いだ。

律動されながら思う。そうだ、全ては酒の所為にしてしまおう。酔っ払っているんだ俺達は。

「総悟…っ好き、だ」

だから、だからこんなことしてるんだ。
時折この人が囁く甘い言葉も、俺が流してる涙も全て、…全て気のせいだ。
じゃないと俺、どうにかなってしまいそう。







end.



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