夢の中で何度も土方に出会う。そして必ずと言っていいほど恋人にするような甘いことをするのだ。

だからかもしれないが、最近の沖田の頭の中は土方でいっぱいで。どのくらいいっぱいかというと、今、病院の診察室のカーテンを開けられ、目の前に土方がいて、まさかこれは夢の続きかと思うほどに。

「あら、また寝てたの沖田さんたら」

カーテンを開けた看護婦が可笑しそうにくすくす笑う。
土方はその奥でペンを持ちながら眉間に皺を寄せていた。

沖田ははっきりしない頭で、のそのそと診察室の中へと入って、イスに腰掛けた。

「だって待ち時間が長くて、飽きるんでさぁ。携帯も弄れないし…」
「だからって普通寝るか?子供ならまだしも…」
「まだ子供ですぜぃ」
「もう18歳だろ、大人だ」

――誘導。
子供扱いされたくないために、わざとその言葉を言わせる。

気づいたのはいつだったか。
もともと体が弱く、風邪を引きやすい体質だったし、よく喧嘩もするから、自然と病院に通う回数が増えていった。

その度土方に小言を言われ、最初こそ鬱陶しく思っていたが段々と馴れてきて、次第にその小言が聞きたくなるまでに土方に依存していた。

そして生まれ始めた嫉妬という感情。土方の側にいる看護婦たちに、看護士に、患者に。
全てが土方と関わっているのかと考えると、胸が爛れたように痛んだ。

窓から入るそよ風にフワリと土方の短い黒髪がなびく。
それをじぃっと見つめていると、土方はずれた眼鏡を中指で押し上げ、質問してきた。

「それで、今日はどうしましたか?」
「……夜、眠れないんでぃ」
「眠れない?」
「ここんとこ最近ずっとでさ。だから安定剤でも貰おうかと」

原因は、わかってる。
きっと頭で色々考えすぎなのだ。土方は恋人といる時どういう表情をするのだろうかとか、病院の先生なんかのことなんでこんなに気になるのかとか。

「だからお前、さっき寝てたのか」
「……」
「ならそう言えばいいのに」

申し訳なさそうに視線を落とす土方に胸がちくんと痛む。
違うんだ、あれはただ土方に言わせたい言葉があったから、言わなかったまでで、別に無理してた訳じゃない。

(だから、一瞬でも患者に無理をさせた…なんて、アンタが落ち込むことないんだよ)

カルテにさらさらと馴れた手つきでペンを滑らせていく。

「…じゃあ、安定剤一週間分出すから。それでもまだ眠れないならもう一回来て」
「足りねぇよ」

そんな量、すぐ切れてしまう。なるべく眠っていたい。そうすればあの優しい土方に会えるから。

土方は怪訝そうに目を細めた。

「お前…何か悩みでもあるのか?学校で嫌なことあるとか」

あながち的外れじゃない質問に思わずギクリとする。

「まあ…学校関係ではないけど、悩みはありやす」
「…だからかもな」
「え?」
「眠れないんだろう?よくあるケースなんだ。現実が辛いから、夢の中に逃避したがる」
「……」
「けど、そこは人間だからな。悩んでれば寝れないのは当然のことだ」

(原因は、多分アンタなんだけど……)

いけしゃあしゃあと言われても、その本人に言われてはどうしようもない。

表情には出さず心の中で笑っていると、土方は心配そうに顔を歪めた。

「……大丈夫か?」
「え、何が」
「ボケッとしてたから。やっぱり安定剤は危険なんじゃねえのか?飲み過ぎたりするだろ」
「…平気でさぁ、多分」

多分かよ、と溜息混じりにそう呟いて土方はカルテを書き直し始めた。

その間にヨコシマな妄想が頭を埋め尽くす。
しょうがないから今夜一緒にいて様子見てやるよ、とか寝れないなら寝れるように疲れさせてやろうか?とか。

(やっぱ…オカシイな俺)

そう、まるで女の子に恋をしたような。立場何故か逆に妄想してしまったが。

「……ご」

どうしたんだろうか。
もしかして欲求不満なのだろうか。

「……総悟」

しかしまさか男に欲情するほど自分は飢えているのか。
そうだとしたら恥ずかしい。

「総悟っ!!!」

土方の怒声にハッと我に返る。慌てて俯き気味だった顔を上げれば至近距離に土方の顔があった。

意図せずドキッとする。

「…なんですかぃ土方先生、そんなにデケェ声出して」
「いっくら呼んでも応えねえからだろーが!やっぱりそう簡単に薬は出せないな」
「そんなバナナ」
「古いギャグでごまかそうとしても無駄だ。とりあえず、今日はお前これ持って帰れ」

隠そうともせず、堂々と目の前に差し出されたのは一枚のメモ帳。

「……これ」

あきらかに電話番号が書いてある。流石の沖田でもこれには驚いて、目をパチクリさせていると土方はばさりと言い切った。

「お前には少々カウンセリングが必要みたいだからな。…薬は二錠だけ出しておく。薬がどうしても必要な時、不安すぎて眠れない時…とにかく大変な時に電話をよこせ」

まさに今、そんなバナナと叫びたい衝動に駆られたが我慢する。顔がほてるのが分かる。
――なんだ、この状況。

「…分かりましたか」

わざとらしく先生らしい口調で喋る土方の目を見れない。
けど顔を逸らすのも何だか悔しいから、視線だけ逸らして、頬を桜色に染めて応えた。

「分かり、やした」

よし、と言われぽんぽんと頭を叩かれる。
熱が更に顔に集中したのが分かった。

(なんで…こんなに)

嬉しいのか、解らない。
今日もきっと、眠れない。





to be continue...


(結姫様リクエスト。ありがとうございます!)

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