何ヵ月かに数回の逢瀬。危険を伴うのは言うまでもなく。
それでもやはり逢わずにはいられなくて。
今宵もそしてまた。
「久し振り」
「あぁ」
多くの言葉は語らず、高杉は静かに沖田を抱き寄せた。彼も自然と首に腕を回し、月に照らされて、二つの影が重なり合う。懐かしい恋人の香りに沖田は思わず安堵のため息を吐いた。
「晋助の匂い落ち着く……」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
くしゃりと髪を撫でられ、気持ち良さに目を細める。隊服を脱ぎ捨て、こうして高杉と一緒にいることが、今の沖田にとって最高の至福だった。
しかし忘れてはいけないのが、お互いこのことは誰にも知られてはいけないと言うこと。
「総悟、ひとつ聞いても良いか」
「……なんでぃ?」
「後悔してねぇか」
もう耳に蛸が出来るくらいに聞いた、その言葉。
「晋助……実はお馬鹿さんなんですかぃ?」
「そうかもな」
「何回その返事返したと思ってんでさぁ」
(後悔するくらいなら、始めからアンタなんかに近付きゃしないっていうのに)
沖田は小さく微笑み、軽く指の腹で高杉の唇に触れた。
「何だよ」
「ん、別に?」
ゆっくり、ゆっくりと。確認するかの様に指を左右に動かす。
ザワリと胸が疼き出すのが分かった。
(この口が、唇が)
「…とりあえず、そこの社に入らねぇか?何もわざわざ外で話すこともあるめぇ」
「うん」
(この人の全てが愛しくて仕様が無い──)
「っ…今日は随分と余裕がねぇなあ?総悟」
社に入るなり、沖田は高杉を押し倒した。日頃手入れをされてないのか、カビ臭い埃がフワフワ舞い上がる。しかしそれさえも気に止めず、沖田は潤む瞳を下にいる彼に向けた。
「ねえ……俺晋助が、欲しいよ」
「いくらでもくれてやるよ、俺なんざ」
「何もかも、全部。アンタ自身もアンタの大切にしてる何かも、心も。全部…全部欲しいんでさぁ。それでも……くれんの?」
一瞬の静寂。
響く互いの呼吸音。
「……少し黙っとけ。いつにもましておしゃべりなその唇、塞いでやろうか」
「んっ……」
着物の襟を勢いよく引っ張られ、唇が重なり合う。最初は優しく徐々に激しくされ、沖田の身体は段々と蒸気していく。
銀色の糸を引き、離れたかと思えば一瞬のうちにぐるりと視界が反転した。
「お前はこっちだろ」
ふ、と勝ち誇った様に妖しく微笑する高杉に悔しさを感じ思わずバシリと腕をはたく。
「とんだいいがかりでさぁ。俺は別に下にいたい訳じゃねえ」
「ただ俺ぁ、お前を愛してぇだけだ」
不意に見せる優しい笑顔。似使わない素直で無邪気な表情。
「……晋助はずりぃでさ。その顔反則」
何か恥ずかしくて染まった頬を片腕で隠せば、それをまんまと掴まれ頭上に腕を固定された。そして心臓が破けそうなくらいに顔を近付けられて、濃密に視線を絡まされる。
今更だが、何だか無性に恥ずかしくて。
「この顔は……今だけ、今の俺はお前だけのもんだ。総悟」
「っ……」
「いらねぇのか?」
「意地悪、だねぃ…」
欲しいに決まってる、そう言うと同時に再び唇を激しく重ねられ、首筋から足の爪先まで念入りに触れられた。
それから壊れそうなくらいに愛しあって、何度も繋がった。甘い言葉は吐いてはいないけれど、熱い体温から確かに好きだ、愛してると触れ、触れられる度に感じてた。
* * *
沖田はいつの間にか眠ってしまっていた。外はもう太陽が昇りそうな様子。
ぼやけた頭で、一瞬夢だったのかと考えてしまったが右手に温かい体温を感じて視線を向ければキュッと握られている自分の手。
「……起きたか。身体、大丈夫か」
「え、あ、晋助…?」
情事の時でも、高杉の方から手を絡めるなどということはなかったのに。でも今まさに絡み合っているのは沖田と高杉の手であって。
「どうした?寝ぼけていやがんのか」
「……夢?」
みるみる自然と頬が紅潮してしまう。少し汗ばんだ指先や手のひらが嫌に生々しい。
混乱している沖田を見て、高杉はおかしそうにクックと笑った。
そして、次の瞬間には瞳に哀しみを滲ませ、ぽつりと呟いた。
「……俺だって、お前の全てが欲しい。もっと知りてぇんだ」
「──え?」
「この手ぇ放したら……お前はアイツらの所に帰っちまうな」
「……。」
哀しいのに、嬉しくもあるのは何故なんだろう。高杉の大切なものに嫉妬していたことが、馬鹿だったと分かったからなのか、はたまたそれが自分だけじゃなかったからなのか。
「なあ、本当にこれが夢だったらいいと思わねぇか」
「…だったら、いいですねぃ」
(そういえば、永久にこの手を放さずにいられるのに)
fin.
(我子さんリクエスト。ありがとうございました!)