「そういや、藤堂の奴長年連れ添った女と別れたらしいですぜ」
「…そうか」
「馬鹿な奴ですよねぃ……ほんと」
燦々と如く降り注ぐ太陽に悪意を確かに感じながら、沖田と土方は巡回を行っていた。
流れてくる汗をうっとおしく思いながらグチグチと沖田は不満を零す。
「あ〜暑ぃ。なんでこんな日にわざわざ市民の為に俺が働かなきゃなんねんでぃ」
「それが仕事なんだっつーの。いいからサッサと歩け」
「そーだ。いっそのこと民間人全員に刀でも持たせたらどうですかぃ?“自分の身は自分で守りましょう。でもちゃんと税金は納めなきゃ逮捕ダゾ☆”みたいなキャッチコピーでも作って」
「バカかああぁっ!それじゃ俺ら用無しじゃねえか!!それこそ万事屋に言われたみたいな税金泥棒になっちまうだろボケェ!!」
のろのろと歩きながら、ただでさえ暑いのに暑っくるしい大声だすな死ねよと散々罵られ、土方はギリギリと奥歯を噛み締める。
「あ」
沖田の声に顔を上げ、ふと前方を見ると瞳を輝かせた栗子が嬉しそうに近寄ってきた。
「お久し振りでございまするマヨラ様!」
「あ、あぁ」
気まずそうに作った笑みを顔に貼り付け、必死にこの場を切り抜ける方法を考える。
だが、あまり良い策が出ず結局長々と栗子の話に付き合わされてしまった。
栗子と別れを告げた後、はぁと重い溜息を吐く土方に沖田は不思議そうに問い掛けた。
「そんなにあの子が苦手って訳でもないでしょう?何、そんなに疲れた息吐き出してんですかぃ?」
「……気を使うから疲れんだよ。下手に傷つけたら俺の命が危ねえしな」
「でも、結構気が合う所とかあるんじゃないんですか。試しに付き合ってみれば?」
「…何言ってんだよ」
「満更でもないくせに。まぁ頑張って下せぇよ」
その言葉に引っ掛かりを覚え、思わず土方は沖田の肩を掴む。
彼は顔を合わせようとはせず、目線を地面に落としていた。
そのまま沈黙が流れ、ジワジワと煩い蝉の鳴き声だけが響き渡る。
その静寂を破り、聞こえるか聞こえないかの声でぽつりと土方は呟いた。
「……俺はお前が好きだと言っただろーが」
また訪れる静寂。
蝉の鳴き声。
次に聞こえたのは少年の皮肉めいた小さな笑い。
「俺は諦めろって何度も言いやしたぜ…」
額に堪った汗が、目を、頬を伝って雫となって落ちてゆく。
掴まれた肩がどうにも熱くて、痛みさえ覚えてしまう。
「……お前の気持ちはハッキリ聞いてねえ」
「言う必要性なんてありやせん」
「っ……嫉妬してんじゃねえのかよ?さっきのお前は」
「っ……」
──だって、嫌なんだ。怖いんだ始まるのが。
だから。
「そんなに聞きたいなら教えてやりやすよ。……俺は、アンタなんか、アンタなんか大嫌いでさァ」
蝉がまた、
ジワリと泣き出した。
「オイオイ。馬鹿はねぇだろ馬鹿は」
「だって馬鹿じゃねえですかぃ」
「何が」
「別れるくらいなら、付き合わなきゃ良かったんでぃ」
「……?」
「始めなきゃ良かったんでぃ。そうすれば……終わりなんてこなかったのに」