「ふっーー…!」

「我慢しろ、なんであんな無茶したのだ馬鹿者め」

油断したところをつかれ、後ろからバッサリやられた。
抉れた傷口に染みる消毒。もはや感覚がなくなっているかと思っていた左腕は、なんとかまだ生きてるようだ。

部屋の中に充満したキツいアルコールの匂いで鼻がツン、とする。桂が俺の腕に丁寧に包帯を巻きながら縁側で月を見ている銀時に声をかけた。

「オイ銀時。貴様いつまでそうしているつもりだ?腐るぞ」

「……別にぃ。これくらいかすり傷だ。お前の治療受ける方がよっぽど怖ぇーよ」

こちらを振り向かないまま、血で染まった着物とともに手をヒラヒラと揺らす。
――俺はどうしたらいいのだろうか。今、口を開いたところで憎まれ口しか叩けない。

桂はやれやれと溜息をつき、腰をあげ銀時の隣りに座り無理矢理袖をあげた。

「ってえ!何すんだヅラッ」

「フン、やはり痛いのではないか。強がりおって……」

俺を庇って受けた傷。あの時銀時が庇ってくれなかったら完璧背中をやられていた。ギリギリの死線で銀時が間に入ってきてくれたから、俺はまだこうして立っていられる。

「つかよー…あのブタどんだけだよ。俺の刀ポッキリ言っちゃったぞオイ」

はあ、と嘆息する銀時の背中を思わず足蹴にする。

「…じゃあ助けなきゃ良かったじゃねえか。大切なその刀、折れることもなかっただろ」

「高杉、一応銀時も怪我人なのだぞ」

足をどけろ、と桂に促されたが逆に背中を押す力は増すばかり。

「こっち向けよ銀時、答えろ」

「高杉、」

「黙ってろヅラ」

重苦しい沈黙が暫く続き、やっと銀時が俺の方を向いた。


……なんて目してやがる。


「はー…面倒くせえな晋ちゃんは本当。ただお前ぇが弱いから手助けしただけだ。いつまでたっても弱虫だなお前は」

「なっ…誰が弱虫だ、ふざけんな銀時!」

「やめろお前ら!」

俺が銀時の胸倉を掴んだと同時に桂が素早く仲裁に入る。息を荒げる俺とは対照的に銀時は冷静だった。

何故こんなに苛ついてるのか自分で分かってる。それが逆に腹ただしかった。

「お前ら…とりあえず落ち着いてくれ。今水を持ってくる。くれぐれも喧嘩などしてくれるなよ」

桂は月明りに照らされた廊下をあまり足音をたてずに歩いていった。音が遠くに行ったのを確認するかのように、俺達は耳を澄した。

「……高杉、お前なんであんなに隙を見せたんだ?」


その質問にドキリとしながらも平静を保つ。声が震えないか気を使って答えを出した。

「さあな……」

「素直に話せよ」

「何でもねぇ」

「嘘つけ」

「…分かってんだろ?本当はもう」

力無くそれでも試す様にニタリと笑ってみせる。

「だったら言ってみろよ、分かってんなら、知ってんならお前が言え銀時…」

俺が油断したのは、お前を探したからだ。
やられてないか心配で、それで気が散った。無論、理由はそれだけではないが。

ここでニコリと笑って、俺の気持ちに気付いていたといって抱き締めてくれたらどれだけ満たされたのだろう。

そのあっけない妄想はいとも容易く破壊された。

「知らねぇな、俺が分かる筈もねぇ」

冷たい目と言葉によって、無残に、残酷に。

「ク…ククッ、本当ヒデェ野郎だな」

ゴロリと銀時の横に寝転がる。悔しさから笑いが込み上げてしょうがない。

「テメェに言われたくねーよ」

「言えてらあ」

お前は俺を守る。
俺はお前を守る。

それで充分じゃないか。たとえそれがもし破られたとしたって。


「……冷てぇ男」


その時が来ても
お前なら、俺を。



(殺してくれるだろ?)




END.


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