雪が降った。
しっとりとした冷たい空気を肺一杯に吸い込んで、朝の清々しさを身体で感じる。

「冷えるな……」

久しく真選組に帰ってきたのはいいものの、居心地は最悪だ。
近藤や沖田は分からないが、他の連中は皆上辺で僕に接する。

ギシ、と廊下を歩く音がしたと思えば酒瓶を持ってる土方がこちらに向かって来ていた。

「何しにきたんだい?ここから先は僕の部屋しかない筈だが」

非番なのだろう。土方は隊服ではなく、黒地の着物を着ている。
眉間に皺を寄せ、

「言っとくが別に俺からじゃねえぞ。いい酒貰ったんで先生にも分けて差し上げろって近藤さんがしつこいからよぉ」

そう言って荒々しく僕の立っている隣りに座り、キュポンと酒の蓋を開けた。ご丁寧なことにお猪口まである。そしてそそくさと一個のお猪口に酒を注ぎ始めた。

「……君は僕にそれをあげる為にきたんじゃないのか?」

「あぁ」

「じゃあなんで今、僕じゃなくて君が酒を飲んでるんだ?」

怪訝そうに土方を睨み付けると、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「テメェも一緒に飲みゃあいい話じゃねえか。それに俺ぁこの酒、前々から目つけてたんだよ」

いつも貰ったり買ってきても総悟に飲まれるからと呟きつつ、土方はトクトクともう一方のお猪口に酒を注いだ。

「朝から酒とは……とんだ警察だな君は」

「今日は非番だから関係ねぇ。……飲まねぇのか?」

座るか座らないか決め兼ねていると、

「飲まねえなら、総悟にあげることになっちまうが」

「……それは勘弁して欲しいね。僕は常に彼にお気に入りの酒をあげているんだし」

少しくらいは僕も飲まないと、と言い加えると土方は表情ひとつ変えずに再び飲むように促した。

僕は腰を降ろし、小さな酒の入ったお猪口をゆっくり口へと運んだ。

「本当…解らない」

「――あ?」

「何でもない。言っても無駄だろうし言わないでおくよ」

「そーかよ」

ブルッと不意に寒さを感じ、そして土方が羽織りを着てないことに気付いた。

「……土方君、酒持っていっていいから帰りたまえ」

「まだ飲み終わってねーよ」

「お猪口ごと持ってそのまま帰れって言ってるんだ。馬鹿か君は」

僕の言葉にムッとしたのか眉間にさらに深い皺が入る。


「なんでだよ」

そのままじゃ風邪引くだろう。息が白くなる程寒いんだぞ。

「解らないのか?少しは自分で考えてみたらどうなんだ」

「……俺と飲むのが気に食わねえからってことか」

違う、そうじゃない。

「やれば出来るじゃないか」

「――じゃあ尚更行く訳には行かねぇな」

「……日本語も理解出来なくなったか?」

僕が顔を渋くさせているのを見て、土方は皮肉ったらしい笑顔をこちらに向けた。

「お生憎様、俺もテメェが気に食わねえ。だから精一杯嫌がらせしてやるよ」


――ほら、だから解らない。上辺でもないし従っているわけでもない。嫌っているくせに、何で。

「まるで沖田君みたいな嫌がらせだな」

「ずっと一緒にいる所為で移っちまったのかもしれねえなきっと」

「……迷惑な話だ」


本当はありがとうっていいたいんだ。
だけどどうにも言葉に出来ない。

本当は君に対してよく解らない感情が芽生えてるんだ。

だけどそれこそ声にすらならないんだ。













end.



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