1.指だけ、そっと


――(困ったな)

すでに太陽が沈み暗闇に月が浮かぶ深夜。光るネオン街の裏側を臨也は走り抜けていた。

事のはじまりは数時間前に遡る。臨也は誰の後ろにもつかない情報屋として通しているが粟楠会に、より親密に営業しているのを好まない他の組がいる。

組に不利な情報を流される訳にはいかない。そうするには折原臨也を抹消するのが一番だと踏んだ。
金さえ支払えば情報は与えるというのに、自分らの小ささに気づかず実力行使に出てきたのだ。

出会い頭から死亡を要求された臨也は当然逃げ出し、現在に至る。

「待てっ折原ぁあ!!堪忍しろ!」

ひとつではない多勢の足音が追いつめてくる。さすがにむやみやたら発砲はしない。だがいつ打たれるかと考えると嫌でも冷や汗が背中を伝う。

(めんどくさい、何処で撒いてやろうか)

このまま行くと確か行き止まりになってしまう。上に跳ぶか、と視線をビルへと移した瞬間――激しい発砲音と共に右足に激痛が走った。

「っ……!!」

バランスを崩し目の前の壁にもたれ掛かる。

さすがにヤバイ、と次の攻撃に備えて身を構え振り向いた。

「……え?」

何故か組員達は自分を見ていない。標的である筈の臨也を目の前にそれは不可思議な光景だ。
だが組員達はすでに狩人から獲物へと変わってしまったことを一瞬で理解しただけなのだ。

臨也は暗闇から現れたその姿に息を飲む。彼が着ているバーテン服、サングラスの下から鋭い眼光がギラギラと存在を主張していた。そう、現れたのは平和島静雄だった。どういうことか怒りを全身に纏いながらこちらに向かってくる。

「シ、シズちゃん」
「なんかノミ蟲くせぇと思ってきてみれば……やっぱりてめえかよ」
「君って最高に空気読めないよね」

煙草の煙を吐き出し、余裕のある静雄とは反対に組員らは動揺していた。いくら拳銃を所持してようが静雄に今後狙われるのは避けたい。そして臨也をここで見逃せば後々の報復が予想できる。

拳銃を持っている組員は安全装置を外し、臨也に向かって拳銃を構えた。

報復が怖いのなら。今、ここで、殺せばいい。

「死ね……!」

こちらに向いた銃口に臨也はハッとして恐怖で思わず目を瞑る。鋭く鳴り響く銃声……だが一向に銃弾は自分を貫通しない。怪訝に思い瞼を上げてみた。

(なっ……!)

あまりに近くにいた金髪に臨也は驚愕した。
がちゃりと再び解除される音が聞こえ目の前の怪我人を退かせようと肩を掴む。

けれど逆に包み込むように全身を抱きしめられ、身動きができなくなる。
拳銃が唸り、今度は何発も打たれ静雄の身体から血が滲んだ。肩を掠めた銃弾で飛び散った血が臨也の頬に付着する。
静雄はそれをまるで壊れ物を触るみたいに、指でそっと優しく拭った。


――声が出なかった。気を失い、自分にもたれ掛かってきてるこの血塗れの男になんて言えばいい?

ふざけるな?
余計な真似を?
ありがとう?
……さよなら?

遠ざかる意識の中、頬の熱さを感じながら臨也は暗闇に落ちるように目を閉じた。




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