僕の休日は不定期だ。患者が来れば断るわけにはいかないし、週休を決めているわけではない。だから愛する彼女と丸一日をずっと一緒に過ごせるとても貴重な時間なのである。

「ああ……セルティ、セルティ!!君が恋しいよ、本当は一緒に居たかったのに!!」
「うるさい、新羅。そんな騒ぐならこの卵焼きは全部俺のものになるよ?」

白と青のコントラストが美しいマイセンの食器を両手に持ちながら、臨也は意地悪そうに口角を上げた。床に膝をついて項垂れる僕を嘲るように見下ろしてくる。

「セルティはあくせくとお仕事中なんだから大人しく待ってろよ」
「君の依頼じゃないか」
「しょうがないだろ。だからせめて変わりに朝食まで作ってあげたじゃない」
「彼女のが食べたかったんだよ俺は!」
「美味しくないのに……」
「あれは芸術なんだよ!私だけがわかる最高の料理なんだ!!」

ああ、そう。と一言言い放って臨也はイスに腰掛けた。

「食べないの?」

食べるよ、食べるけども。今すぐセルティが帰宅しないかと後ろ髪を引かれるような思いで僕は料理を口にした。焼き鮭に卵焼き、ホウレン草の胡麻和えと和食な品揃え。
バランス良く作るわりに当の本人は野菜にはあまり手をつけない。
それを可笑しく思っていると半分残したまま臨也は席を立った。

「あれ?どうしたんだい」
「あとで食べる、ラップしといて。昨日から寝てなくて眠い……」

そう言って臨也はのろのろと僕の部屋へと向かって行った。また僕のベッドで眠るのか。つい笑いを零してしまう。
普段、潔癖なところがあるくせになぜ人のベッドで眠れるのか不思議だ。ただ、中学の時一緒に入って昼寝しようかと思ったらすごい剣幕で追い出されたことがあったっけ。
今そうしたら、臨也はどうするだろうか?そんな好奇心がうずうずと芽を出して、僕も自室へと足を運んだ。寝息は聞こえない。まだ睡眠には入ってないみたいだ。

「臨也、いい?」

空白を開けて臨也は機嫌が悪そうに小さな声を出した。

「なに」

わかってるくせに問うなんて、珍しいなあ。それほど嫌なのか。

「僕も眠いんだよ。昨日遅くまで起きてたから」
「自分のせいじゃないか。そもそも答えになってない」
「そもそも、も何も、これ僕のベッドだからね。眠かったらそりゃ寝るよ」

白衣を脱いで近くにあるハンガーに掛ける。微かな布擦れの音に反応し、臨也が小さくため息をついた。それを許可と解釈し真っ白な掛布団をめくり中へと体を潜り込ませる。臨也の黒い服が白いシーツにやけに映えていた。
「……本気で寝るから邪魔するなよ。夜仕事片づけなきゃいけないんだ」
「わかった、おやすみ」

暫くすると微かに寝息が聞こえてきた。昔みたいに突き飛ばされるのを覚悟していたのでなんだか拍子抜けだ。昨日熟睡して6時間きっちり睡眠をとった僕はちっとも眠くない。
どうしようかと思案していると寝返りを打った臨也の体が密着した。滑らかな黒髪が目に入って猫を撫でるようにその髪に触れる。その流れで頬にも触れてみたら、あまりに柔らかくて何だか妙な気分になってきた。

普段は警戒心を張りつめて、人を駒にして笑っている彼が無警戒・無防備で今僕の隣で眠っている。何の策略もない。ただ彼自身がここにいるのだ。

「君はいつも僕が腹の中で何を考えているか知ってるかい?」

歪んでる愛だと臨也はよく僕にいうけれど。腹の中はもっともっと歪んでる。
それをまだ君は暴けていない。ああ、真っ当な人間も道を外れた人間も理解できないかもしれないね。だって私はそれらとは全く違う人間なのだから。

「ねえ、臨也。君はどんな風に泣くの」

そしてどんな風に懇願するの?女を抱いたり、快感に酔った時、どんな表情をするの?
笑ったり怒ったりする臨也は見たことがあるけれど、それはほんの一部。まだ、僕の知らない君が見たい。全部よく観察したいんだ。こんなこと言ったら同族嫌悪にも似た感情を僕にぶつけるだろうけどそんな君もまだ見たことがないから、それでもいい。

「臨也、起きて。臨也」
「……ん、起こすなって……言っただろ」

細い肩に手を掛けて軽く揺さぶる。臨也は眠そうな声を出し、瞼を薄らと開けた。
片手で顎を掴めば、臨也は怪訝そうな目でこちらを見た。

「新羅?なに……」
「俺はね、臨也。もっと知りたいだけなんだ」
「は?」

抵抗できないように手首を抑えつけシーツに縫い付ける。
動揺して見開かれた瞳に吸い込まれるように顔を近づけ、柔らかいと思われるその唇に僕の唇を重ね合わせた。
びくん、と臨也の肩が跳ねる。
これくらいで君が涙を流すなんて到底思えないから、僕はもっと酷いことをするけれど。途中でなんてやめてあげれない。
だからねえ、早く。縋るように泣いて見せてよ。


END

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -