酔って、記憶がない。
波江は付き合っちゃくれないし、かと言ってわざわざ誰か呼び出すほど友達も多くない。
だから家で一人酒をしてて、トランプ燃やしてみたりキャスターが付いている椅子を回して遊んだところまで覚えている。

「おい、待てノミ蟲」

けど、シズちゃんの家に来た記憶なんかない。どこにもない。だからなんでここにいるのか不思議すぎて頭が爆発しそうだ。そう。何たって俺は天敵の根城に丸腰で居るわけだし。
…捕まれた腕が圧迫されすぎて痛い。

「待たないよ。なに、なんか用なの?」
「こっちの台詞だろ!急に来たかと思えばヘラヘラヘラヘラ一人でよぉ…」

寝ていたのかシズちゃんはサングラスは外して、薄手の白いシャツを着ていた。下は何故か下着のみだ。

「俺がアホみたいに聞こえる言い方やめろよ!というかなんで下着?セクハラ??」
「殺すぞ。着ようかと思ったら手前が勝手に鍵開けて入ってきたんだろうが」
「覚えてない!そっかこれ夢だったりする?だったらいいなあ、そうだそれがいい!」
「あぁ?」

確かにこっそり合い鍵は作っておいた。なにかしらで使えると思って用意してはいたけど、なにもこんな使い方しようとは思ってない。

へばり付けた笑顔を消さないようにヘラヘラ笑って逃げようとする。だが、両手を捕まれ壁に縫い付けられてしまった。

「ちょ、シズちゃん」
「夢にしちまうのか?」

――なんのこと?
そんな表情をしてやったらシズちゃんは目線を逸らして顔を紅潮させた。え?なに、意味わかんない。

「手前、さっき…俺に、その、すすす好きだとか言ったじゃねえか!」
「……へ」

まさか。まさかまさか。
たまにあるんだよ酒飲んでテンション上がって言いたいこと言うだけ叫んで。記憶がないっていうパターン。この前も波江に「あんた平和島静雄が好きなの?知らなかったわ」とか淡々と言われたし。ってか、えええもうやだ消えたい!

「違うのか…?」
「な、にが」
「好きじゃねえのか?」
「――っ!」

思わずカァッと顔が熱くなる。否定しなきゃ、早く。

「酔ってたし。そんな状態の人の言うことなんか信じないでしょ普通…」
「酔ってる時ほど本音吐くって、トムさんが言ってた」

トムさんコノヤロウ。そういう無駄な知識を与えないで欲しいな!馬鹿は真っ白だからすぐ吸収しちゃうんだからさあ!

「違う人のことだよ」
「俺の名前呼んでた」
「……つ、」
「……臨也」

やだやだやだ。名前なんか呼ぶな。目を合わせるな。そんな顔をするな。

「離せっ!」

無駄だとわかってる。だけど今すぐシズちゃんから離れたい。逃げたいんだ。

「きもちわるいっ…」

俺を受け入れようとしてるシズちゃんなんて考えられない。
そんな方程式成り立っちゃいけないんだ。いつもみたいに殺す!って叫んでよ。

「臨、也」

シズちゃんの息が顔に触れる。それ程近づいていた。
ねえ、そんな声だして俺になにを言わせたいの。残念だね。もう俺の喉は君を哀しませるか苛立たせる言葉しか紡がない。

「嫌いだ。シズちゃんなんか、大嫌いだね」

だってそれが俺達のはず。俺を許す君なんて気持ち悪いだけ。なのに、平気で君は俺を許す。

たったひとつの言葉だけで。不確かな状態での愛の告白でさえ、嬉しいの?
愛されること自体が嬉しいだけで人は関係ないんじゃないの?そう思うと胸がムカムカして、爛れたように熱くなった。







 

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