わかっちゃいる。
どれだけ可笑しいことなのか。わかっちゃいるけど、だからこそ自分以外に否定の答えが欲しくて、臨也は放課後の屋上に新羅を呼んだ。

「で、話っていうのは朝に君が泥棒したラブレターのこと?」

口を開く前にそう尋ねられ、驚いたように目を見開いた。苦笑いをする新羅を見て、臨也は少し悔しそうに笑った。

「見てたね?」
「たまたまだよ。まさに邂逅相遇!それにしても君もヒドイことをする」
「それは違う、俺は彼女の為を思ってしたんだよ」

いつのまにかポケットから取り出していた手紙を見て、うやうやしく言葉を紡ぐ。
屋上からそれぞれの生徒達を見下げ、臨也はため息をついた。

「ザッと見て、今校庭にいる人数は男だけで50人くらいだ。シズちゃんならこの人数、何秒で倒せるのかな?」

昔、試してみたことがある。数十人という数の暴力を静雄にぶつけたのだ。その結果は思わず拍手を贈りたくなるほどで。
同時に理解した。平和島静雄は人の形をした化け物だと。

「……きっとあっという間だよ!何たって標識すら曲げちゃうんだもの。人間なんて簡単に壊れる」

だから、愛さない。人は皆愛してるけど静雄は違う。いつだって人の行動パターンの中になんて収まってはくれない。ましてや普通に女性を愛する、なんてできるのか。疑問だった。

「抱きしめたりしたら絶対背骨は粉砕するだろうし、挿入なんかされたら股関節が変形しちゃうかもしれない。俺は人が好きだ。だから勘違いの感情で付き合ってもしも死んじゃったりなんかしたら……なんて彼女に謝ればいい?」
「……どうして勘違いなんて言えるんだい」
「どうして?だってさ、優しいところが好きです。なんて勘違いもいいとこだよ!あんなに毎日毎日殺す殺す叫んで走り回ってる奴が優しいだなんて!」

――新羅が立っている位置からは後ろ姿の臨也しか目に映らない。わざとらしく嘲るように両手を広げて語っているけれど。
(いったい今どんな表情をしているんだろうね)
肩を掴んで振り向かせて見ようとは思わなかった。だってそれは彼が今最もされたくないことで、なによりそんなことを求めちゃいないだろう。

「だからね、これはヒドイことじゃないよ。だって俺は彼女を助けてあげるんだから」

そう言って静かに手紙に亀裂が入る。ビリ、と乾いた音をたて何度も何度も何度も。その音が止まるまで臨也は手を止めなかった。
足元に溜まった紙屑はどこか居場所を探すようにフワフワと飛んでいく。

「……ずるいね臨也」

他の誰でもなく、新羅を選んだ。彼なら躊躇などしない。欲しいものを自分に与えてくれる。

「あぁ、ずるいさ」

――だから早く否定してくれ。この認めたくない感情も歪んでいる俺自身も。

「君って本当、反吐が出る」

こっちの気持ちなんてお構い無しに自分の感情すら他人に押し付けるなんて。
傷ついたなら素直に痛いといえば慰めもできるだろうに。

臨也は自ら傷口を拡げてそれすらも知らないふりをした。









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