――美女と野獣、はよく聞くけど。美女と化け物なんて世間はきっと認めちゃくれないよ?

臨也は静雄の靴箱を開けたあと頭の端でそんなことを思った。嫌がらせをしようと画鋲片手に開けたら目の前には見るからにラブレター。
それをなんの躊躇もなく、ごく自然に制服のポケットへ滑り込ませた。

寂しくなった靴箱に代わりに手元の画鋲を無造作にザラザラと入れてやる。
しかしそれはあくまでも囮であって、本命は上履きの中に粘着テープで貼付けた画鋲だ。靴底からも無数に刺してあるので中はまるで針山のようである。

(おっと。シズちゃんだ)

何メートルか向こうに標的の姿を発見し臨也はすばやく階段の影に身を潜め、胸を踊らせながら反応を待つ。

(ああ楽しみだなあ、楽しみだなあ!きっと少しも刺さらないんだろうね!)

簀の子に靴が落とされ、乾いた音が響く。数秒間沈黙が流れたあと、まるでつまようじが無数に折れるような音がした。

「あ痛っ…靴下に穴が……」

足裏の異常に気づき確認した第一声がそれとはどうなのか。あ痛っ、で済む罠ではない。悲鳴をあげて大出血レベルだ。思わず吹き出した臨也は盛大に笑い声をあげながら静雄の前へと飛び出した。

「あっはははは!!シズちゃん!ほんと君って無茶苦茶だよねぇ。足裏見せてよ!」

静雄は突然の出来事に頭がついていかないのか素直に足の裏を見せた。穴は空いているが、皮膚には全くと言っていいほど空いてない。
上履きを逆さまにしてみればパラパラと無惨な姿になった画鋲が落ちてきた。

臨也は勘弁してよ!とお腹を抱えて笑う、笑う、ひたすら笑う。その笑い声で自分が引っかけられたことと馬鹿にされてることをやっと理解して静雄をこめかみに血管が浮かんだ。

「手前コラ…臨也君よぉ……」「わかっちゃいたけど改めて実行してみると面白いことって結構あると思わない?例えば静電気。下敷き擦って髪の毛ふわ〜!なんて解りきってるけどついついしちゃう人もいるし」
「つべこべうるせぇ…!何度言やぁわかんだ、」

グワッと掴んだ靴箱が宙に浮かぶ。個々の扉が次々開いて上履きが重力に従って落ちた。

「俺を……怒らすなってよおぉぉぉおおおぉおっ!!!!!」

普通の学生生活の日常では有り得ない光景。靴箱が物凄いスピードで放り投げられ、臨也が避けたことによってトイレのドアへと、とてつもない轟音を立て衝突する。

臨也が避けることなどわかっていたのか、すぐさま静雄は追うように直進してきた。

「待ていざゃぁぁあああ!!」「ありきたりな台詞すぎるねえシーズちゃん!もっと頭を使ってさ、思わず足を止めちゃうようなことを言ってみなよ!」

投げつけられるごみ箱や消火器をヒラヒラとかわしながら、臨也は階段を駆け上がる。

踊り場まで到着すると今度は手摺りに軽やかに上り、少し進んで助走をつけ一気に降って壁に向かって加速したまま跳躍した。――目標は小窓。

タ、タンと数回壁を足で蹴りあげ伸ばした手を窓の枠に引っかける。そして上半身を持ち上げクルンと回って臨也は外への脱出を成功させた。

「逃げんなノミ蟲っ!!」

逃げなきゃ死んじゃうからそれって死ねってことかな?そんなの御免だ、シズちゃんが死んで。そういえば今日のお昼何食べようかなあ。
そんなことを考えながらただひとつ、静雄へのラブレターという異常事態を除いては、いつも通りの時間を過ごした臨也であった。





 




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