特に何もすることがなく、ただ沖田は自分の布団に仰向けで寝ていた。
酒や精神的な疲れも堪っていたのか熟睡状態だ。
静かに部屋の障子が開く。
息を切らした土方がそこにはいた。
(良かった……)
沖田がいたことに一安心し、思わず溜息がでた。
スースーと寝息をたてて寝ている沖田が少し憎らしかった。
「お前は……」
ギュッと沖田の鼻を摘む。
「んん……」
息苦しくなったのか口かパカっと開いて、口呼吸をし始めた。
少しカサついた沖田の唇を指でなぞると優しく土方は己の唇を重ねた。
少し唸っただけで起きる様子はない。
無防備な寝顔に不覚にも欲情する。
前髪を掻揚げ、今度は深くキスをした。
反応がない舌を無理矢理吸い上げる。
「ふ…んぁ……?」
流石に違和感を感じたのかおもむろに沖田は眼を開けた。
(ーーー土方さん!?)
眼の焦点が合わないくらいに近くにいる男が土方だと気付き驚愕する。
土方の頭を押し退け、なんとか迫り来る唇から逃げた。
「はっ……な、にしてんでさァ!この色魔!!」
赤い舌をペロリとさせると今度は首筋に吸い付いてきた。
「やめろっ退きなせえ!!」
思い切り沖田は土方を蹴り飛ばした。
障子に勢いよくぶつかり、けほけほと咽る。
「げほっ……何すんだテメッ……」
まさか蹴りがとんでくるとは思わなかったのか、驚いた眼で沖田を見た。
「――臭い」
「……はあ?」
「女の香水臭ぇって言ってんだよ……っ」
はっとして土方は己の匂いを嗅ぐ。
ふわりと花の香りがした。
「俺はアンタの欲求不満の吐け所じゃねえ……」
当たり前だ、と言葉を紡ごうとしたがそれは沖田によって手荒く阻止された。
押し倒し、土方の腰にある刀を静かに抜く。そして沖田はソレを首筋に持っていった。
ひやりとした感覚に思わず冷や汗が流れる。
「女、抱いたその身体でもう一度俺を抱こうなんざ……甚だしいにもほどがあらァ」
その言葉に土方は首を傾げる。
(何のことだ……?)
「アンタは抱ければ、誰でもいいんですか」
冷ややかに。
嘆く様に沖田は言った。
「なんのことだよっ!……お前こそ、あの後何してたんだよ」
まさか土方を想い、涙を流しそうになったなど口が裂けても言えまい。
「……何だっていいだろィ。それより質問に……」
「よくねえ!!」
遮られるように怒鳴られ、思わず怯んでしまった。
「なんで誤魔化すんだ……?」
優しく頬に手を添えられたが、今はそれさえ嫌気がさした。
この手で……この指で……自分以外の奴を触ったかと思うと。
冷たく沖田は土方の手を振り払った。
「総……」
「―ーもういい」
結局、自分はやはり土方にとって只のセフレ的存在なのだ。
いつでも好きな時にヤれるし便利なもんじゃないか、と沖田は苦笑する。
動揺している土方の眼を見てしっかり言った。
「俺は……アンタのことなんて好きじゃないでさァ」
今一番聞きたくない言葉だった。
半狂乱になり、耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。
だが、まるで金縛りにあったかのように身体の自由がきかなかった。
「……分かった……」
「……え?」
土方らしくない返答で一瞬沖田は戸惑う。
「もう……仕事以外でお前に関わらなねぇから……」
「……」
沖田は言葉を詰まらせた。
自分の予想していた言葉と正反対のことを言われてどうすればいいのか分からなかった。
必死になって謝って。それでお互い好きだと言って。
己だけだと言って欲しかった。
それが自惚れだと気付いき、虚無感に襲われる。
行き場のない想いを堪えて、静かに土方の上からどける。
それを待っていたかのように直ぐに土方は立ち上がって、沖田の部屋を出て行った。
自分の部屋に戻ると同時に近藤から電話がかかってきた。
「……近藤さん?」
「……トシ?どうした、何かあったのか」
「別になんにもねぇよ……そっちこそどうしたんだよ」
「いや、気付いたら総悟とお前が居なくなってたんでな。」
無断で帰ってきたことを思い出し、思わず深い溜め息をつく。
「悪かった。とっつぁんには後で俺から謝っておく……」
疲れが堪っているのか瞼が重い。
その様子に声で気付いたのか近藤が早く休むように進めてきた。