「離せって言ってんだよ馬鹿野郎共っ」
「いいじゃないすか、もっと飲みましょうよー」
沖田が走り去った後、直ぐに追いかけようとした土方だったがすでにベロベロに酔っ払った隊士達にそれを阻止されてしまった。
「……近藤さん?」
ついには近藤まで酔っ払いと化していた。
松平に乗せられて、いつもの倍以上飲んだ様子だった。
「トシィイッお母さんは悲しいぞ〜…」
「誰がお母さんだっ!てか何がだよ」
「総悟と仲良くしないと駄目らろォー……」
呂律が回っていない言い方で、兄弟みたいなもんなんだから、兄ちゃんなんだからと繰り返す。
その言葉にチクリと胸が痛む。
息子同然に育ててきた沖田を己が穢したのだ。
近藤がこのことを知ったら己を心底軽蔑するだろうなと思った。
「分かってるよ…でもあっちから仕掛けてくるんだぜ?…俺ァ嫌われてるからよ」
沖田は『好きだ』と確かに言った。
だが、普段の様子を見る限りどこまで本気なのか計り知れない。
その場で抱いてしまったが後から散々後悔した。
もし、あっちがふざけていたとしたら少なからず精神的に傷つけてしまっただろう。
自分にしても柄ではないが傷つく。
「総悟はァ…ヒック…素直になれない奴なんらよトシィ」
虚ろな眼を閉じまいと必死にパチパチさせている。
「腹黒なのは分かってる」
「違げーって…アイツはァ………」
「近藤さん?」
ずるりと土方と肩に凭れかかって寝息を気持ち良さそうにたてていた。
「んだよ…話の途中で寝やがって」
近藤を起こさないように静かに寝かせてやった。寝言で何度もお妙さん、と呟いている。
「近藤さんは…素直だなぁ」
実際、近藤は素直に気持ちをぶつけすぎてお妙にウザがられているが、あっちとしては嫌な気分ではないだろう。
相手の気持ちが分からないほど大変なことはない。
素直に己も沖田に気持ちを伝えられたらどれだけいいか。
(そうだ、総悟っ…)
泣きそうな顔で走りさっていった沖田の顔を思い出すと胸が爛れたようにジクンと痛んだ。
急いで土方は遊郭の中を探しに行った。
が、どれだけ探しても沖田は見つからない。
土方の頭にひとつの不安が過ぎる。
(総悟も男だ、まさかとは思うが)
先程の沖田の様子を見れば有り得ないことではない。
もしかしたら総悟は女と寝てるんではないか。
そう考えた途端、身震いがした。
(総悟が…女を抱く??)
頭の中で凄まじいくらいの拒否反応がでている。
元々、土方も沖田も陰間ではない。
ただ好きになったのがお互いというだけのことである。
(取りあえず…屯所に戻ってみるか)
ひとつの大きな不安を抱え、土方は沖田のいる屯所へと戻っていった。