それに気付き、土方は眉間に皺を寄せた。
そういえばと土方は沖田を問詰める。
「その傷……」
「自分で引っ掻きやした」
「…なんで」
「銀八に、キスマークつけられたから」
沖田は淡々と説明した。涙は、もう枯れるほど流したし、土方と繋がったばかりだったので不思議と哀しみは込み上げてはこなかった。
しかし、それに納得できない土方は、
「……なんでそんなに…余裕なふりすんだ」
「…別に、ふりなんかじゃあないでさぁ」
沖田の肩を掴み、困惑の瞳で見つめた。
沖田は土方の眉間によっている皺を、人差し指でぐりぐりと伸ばした。
「そんなに皺、寄せなさんな」
折角の男前が台無しでさぁとからかう様に言えば、土方は戸惑いの色を瞳に映す。
何を言ったらいいのか分からなくなったのか、土方は黙って俯いてしまった。
困らせるつもりじゃなかった沖田はしまったと思い、おずおずと口を開いた。
「辛くないって訳じゃないんでぃ……ただ、」
半端に言葉を濁したのが気になり、土方が顔を上げると不意にギュッと沖田に抱き締められた。
「アンタが、いるって思ったら怖くも何ともなくなったんでさぁ」
その言葉はじわりと熱く土方に染み渡ってゆく。
(俺がいると…思ったから?)
「総悟……」
嬉しいが、また上手く言葉に出来ず。
土方は弱々しく浅い皺を眉間に創った。
それを見て沖田はぷっと笑い出す。
「アンタも難しいお人だねィ…」
クスクスと笑い続ける沖田の口を土方は人差し指で押さえた。
もごもごと口ごもって、何か言いたげな土方に何でさぁと促せば、
「……ありがとな」
耳まで真っ赤になって。それでも自分と眼を離さない土方に、愛しさが溢れ出してくる。
「どう致しまして…」
口には出しては言わないけど。
いくら身体に真紅の痕を付けられても、それを上書きされてしまっても。
――不本意だけど、こんな気持ちに気付かせてくれた銀八にほんの少しだけ感謝。
「とーしろ」
「ん…?」
「好きじゃ、足りないでさァ」
俺の心にアンタが刻み付いてるから。
「愛してる、総悟…」
アンタだけのしるしを、俺に刻み続けて――。
―END―