「大丈夫だから、総悟……俺はお前のことが好きだって言ったろ」
――苦しい。
胸が苦しい。
なんだってアンタはそんなんなんだと沖田は土方の背中に縋りついた。
本当はキレそうなくらいに怒ってるくせに、心ん中ぐちゃぐちゃのくせに。
証拠に声が震えてる。
なのに、人の心配優先して。
(馬鹿でさぁ……)
嗚呼、この人の胸の中はこんなにも落ち着くと沖田は思う。
今まで腹の底で渦巻いていた黒いものが不思議と消えていた。
そして替わりに込み上げてくるのは、
「好き……」
愛の言葉で。
「――え?…」
それは土方がずっと聞きたかった言葉。
一方的に自分から告って、返事も返されないまま身体を繋げ。
嫌われたかと思えば、ケロリと普段通りの沖田。
そのままズルズルと関係は続き、別に沖田は自分のことを好きじゃないと考えていた。
でも、今日神楽に言われた言葉がずっと胸に突掛っていた。
『そーごはトシちゃんのこと好きアル』
『そーごはネ、トシちゃんのこと大好きなんだヨ』
戯言だと思った。
俺を励ますための偽りだと。
でも、今己の耳に届いたのは。
「……もう一回」
沖田は泣いたため赤くなっていた顔をさらに紅潮させ、小さく、
「……好き、でさ」
と呟いた。
眼を開いて、土方は沖田の頬に手を添えた。沖田はそれに気持ち良さそうに頬を擦り寄せる。
「好きだ、つった?」
改めて確認を促すと、沖田は不思議そうに首を傾げた。
「へえ、言いやした」
ドクンと胸が跳ねた。激しい動悸が止まらない。
「今まで、そんなこと一言もッ…」
情事の最中でさえ聞いた事がなかったのに。
沖田は瞬きを数回して、悪戯に微笑んだ。
「ああ、そうでしたっけ?」
「……お前なぁ」
自分がどれほど悩んでいたのかなんて、こいつは知らないのだろう。
あっけらかんと言ってのけた沖田に土方は呆れたように溜め息をついた。
「……土方さん、」
首にスルリと両腕を回し、耳元で囁くように沖田は話し出した。
「俺、怖かった。アンタに汚れてるって思われるのが…でも、アンタは大丈夫だと言ってこうして抱き締めてくれてる。……俺がどれだけ嬉しいか、分かりますかィ?」
"大丈夫"
だなんて軽く言って欲しくない言葉……でも裏を返せば。
面と向かって、眼を見て。大丈夫だと言って、安心させて欲しいんだ。
だからこそ軽はずみには言って欲しくない。
最初のアンタの大丈夫は、信じられなかった。
でも抱き締めて言ってくれた大丈夫は、信じることできたんだ。
何故か凄く心が暖かくなって。
もう無理しなくていいと赦されたようで。
……凄く、凄く嬉しかったんだ。