土方は、暫し茫然と去り行く銀八を見つめていたが、その姿が見えなくなったと同時にハッと我に帰る。


(総悟っ……!)


二時間目の始業ベルがけたたましく鳴り響いたが、そんなことは今やどうでもよく。


必死に土方は再び総悟を探し始めた。


一階から順番に、どの教室も見落とさないように確認していく。
先程、トイレを探していかなかったことに気付き、そこも念入りに確認した。


(ここにはいないっ…)

授業中にも関わらす、大きな足音をたて階段をもどかしく思いながらも、掛け上がっていく。


教室を全て見渡し、土方はトイレのドアを勢いよく開けた。




「……ひ、くっ…」




深、と静まり返っているトイレに響く泣き声。


泣きすぎたのか、少し嗄れたその声は、まさしく沖田のものだった。


土方はゆっくりと、泣き声のする方へと歩いていく。
一番奥の個室から泣き声は漏れていた。


「総…悟、いるのか…?」


(……土方さん!?)


不意に掛けられた声に沖田はビクリと身体を強張らせた。


「ぁ……」


「……いるんだな」


土方は閉ざされたドアにトン、と背をついた。


「な、なんでここにいるんでさ…」


「それはこっちの台詞だ馬鹿」

震えそうになる声をなんとか抑え、沖田はなるべく普段通りに振る舞った。


「トイレしにきたんだから……別に、ここにいたっていいじゃないですかィ」


「トイレは泣くためにあるんじゃねえんだけど」


(………!)


泣いていたことを指摘され、沖田は次の言葉に詰まってしまった。

痛いくらいの沈黙に、沖田は逃げ出したくなる。そもそも、銀八は土方にばらしたのだろうか?


いくら信じていると言っても、奥底にある不安は拭い切れなかった。


「……総悟」


「何…でさぁ」


沈黙を破った土方の声はあまりにも小さく、消えてしまいそうで沖田はどこか不安になる。


「今から俺、すげぇ格好悪いこと言うから、絶対そこからでてくんなよ、いいな」


「……?」


何を言ってるのだと、沖田は首を傾げる。
どういう意味か尋ねようとしたが、土方の言葉に遮られた。



「――行かないでくれ」


今にも、泣き出してしまうんじゃないかと思うほどの。


弱々しい声が沖田の耳に響いた。


「俺から、離れて行かないでくれ……」


「ひじ…かたさ…?」

「俺は、自分でもうぜぇって思うくらい……好きだ、お前が…」



思いがけない土方の言葉に沖田は動揺する。

「ど、どうしたんでさぁ……いつものアンタらしくない…」






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