さらに強い締付けを覚悟し、身構えた銀八だったが、一向に締付けられる様子はなく。
逆にゆっくりと、襟元を掴んでいた手を離された。
「――ゲホッ……」
滑らかに酸素が取り入れられるようになり、銀八はゴホゴホと咳き込んだ。
どういう心境の変更だと、銀八は俯いた顔を揚げ、土方を見た。
土方は、銀八の上に跨がったまま。
先程の気迫はすっかり消え失せ、暗い表情で俯き、唇をギュッと噛み締めていた。
(……どうしちゃったのコイツ……)
「……おーい、土方」
なんだか気味が悪くなり、思わず声を掛けるが返答はなし。
いつもなら無理にでも退かせるところだが、今の土方に余計な刺激を与える訳にはいかなかった。
暫くそのままでいると、ぽつりと土方が呟いた。
「……そうだよ」
「――あ?」
「怖えーんだよ、俺ぁ……」
思いがけない土方の言葉に銀八は眼を見開いた。
「元々……俺が告って…成り行きでここまできたけど。アイツからは"好き"の一言も聞いてねぇし。全然頼ってなんかくんねえから」
「………」
「――いつかアイツが離れていかねえか…不安で、死ぬほど怖ぇんだ……」
(何、言ってんだ俺…)
何故、こんな奴にこんな情けないことを話しているのか、自分でもよく分からなかった。
ただ、"怖いの?"と聞かれただけで。
自分の中の不安の核心を突かれた様で…。
唇から零れ落ちる言葉を止められなかった。
「……土方」
「……?」
銀八は土方の手を掴み、自らの頬に当てた。
「……思いっきり、どうぞ」
何の事か分からず、眼を丸くしていたがグッ…と掌を握らされ、銀八の意図を理解した。
瞼を閉じたのを合図に土方は思い切り、銀八を殴りつけた。
鈍い音が保健室に響き渡る。
「っ……逆の頬は沖田に殴られたんだよな」
口の中が切れたのか、ペッと血を吐き出す。
ハァハァと荒い息遣いをしている土方を一瞥し、銀八は軽く溜め息をついた。
「……沖田は、何もしてないよ。全部、俺が無理矢理したことだ」
「え……」
「――気が、変わったわ」
(お前らの関係、ぐちゃぐちゃにしてやろうと思ってたけど)
「色々……悪かったな――」
そう言って銀八は土方を退かし、ふらりとドアの方へと向かい、くるりと振り向むき、
唖然としている土方に「しょうがないから諦めてやるわ」と、言い、保健室をでていった。