――もうすでに一時間目の授業が始まりそうだった。
朝のSHLは銀八がいないため、無しとなって、その間中、ずっと土方は神楽と話していた。
「いーかヨ、トシちゃん。恋してるとなあ、誰でも乙女になるもんアル」
「……はあ」
「あのサドはネ、今は乙女な訳ヨ。分かる?」
「……はい……ってオイ、なんで総悟が乙女なんだよ」
「なんでって…そーごはトシちゃんのこと好きアル、当然ヨ」
(―――は?)
なんでこいつが知ってるんだと土方は眼を見開いた。
「んだよソレ、お前どこで知って……」
「無論、本人からに決ってるネ」
――本人?
本人って俺か?いや待てよそれは有り得ないだろ、と混乱しつつ、導かれる答えは只一つしかない。
「アイツ……お前に言ったのか?」
(つか、何処まで?何をこいつに話したんだ?)
眉間に皺を寄せる土方を見て、神楽は一喝する。
「余計なことは考えなくていいヨロシ、別にたいしたことは聞いてないアル。只、今付き合ってるのはトシちゃんだって聞いた」
まさか神楽に話していたとは……。
意外すぎて開いた口が閉じらない。
まさか、あの、
意地っ張りで、負けず嫌いで。
人に頼るのを極端に嫌うアイツが。
人に相談するなんて。
「…そーごはネ、トシちゃんのこと大好きなんだヨ」
(……え?)
聞き返そうとした瞬間、ガラリとドアが開いて、服部先生が教室に入ってきた。
致し方が無く、渋々土方は自分の席へと座った。
未だぽかりと空いている沖田の席を見て、土方は胸を締め付けられる。この授業が終わったら即刻、探しにいこうと心に決めた。
一方、沖田は2Fのトイレに篭っていた。
泣き腫らした眼を誰かに見られたくなかった。しかし、涙を止めるために此処に篭ったのに、一向に涙が止まる気配はなく。
「……涙腺、壊れちゃったかな……」
どうせ誰もいないんだと、沖田は嗚咽する。
独りでこの様な肌寒い場所にいると、土方の温もりが欲しくなる。
甘い声で囁いて、こそばゆいくらいの力で抱き締めて……。
"自分"だけと言って欲しくなる。
(大丈夫…土方さんは、きっと分かってくれまさァ……)
『――俺に抱かれた事実は変わらないよ』
「……っ」
不意に頭の中で銀八の忌々しい言葉が過ぎる。
『抱く度に思うかもよ?こいつは"汚れてる"ってな』
――ケガレテルッテナ
「煩いっ―――」
ガァン、と。
――壁を叩いた音だけが、沖田の心に冷たく響き渡った。