沖田は独り、屋上にきていた。抑えきれなかった涙がぽろ、ぽろりと零れ落ちる。
(くそ、くそ、くそっ……!!)
この身体に残る銀八の痕が忌々しい。
恨めしい……。
沖田は爪をたて、ガリガリと痕を掻きむしった。
「……おい、迷惑なんだけど」
不意に話し掛けられ、沖田はビクリと身体を震わせた。
振り返ってみれば、後ろには高杉がいた。
「高…杉」
「上でサボり決定して、今から寝るかって時に……見苦しいことしてんじゃねえよ」
その言葉にカッと沖田は瞳孔を開いた。
「っ……何も知らねぇくせに!!黙ってろっ」
「…ああ、そりゃ知らねえよ。だけどな、お前目の前で泣かれて、血ィ出されてみろ。……黙ってられんのかテメーは」
(血……?)
ジン……と熱く疼いた首を見てみれば、微かに血が流れ出ていた。
「こんなもん、どってことねぇでさ…」
――昨日に比べれば。肉体的にも精神的にも、あれ以上の苦痛なんてないと思った。
「保健室、行ってこいよ」
「……いい」
「行けっつってんだろ。――迷惑」
吐き捨てるように言った高杉だったが、それは沖田を心配してのことだった。
何も知らない高杉から見ても、沖田はボロボロに見えた。
「行かなきゃ、無理にでも連れてくぜ。寝れやしねえ」
「……煩い野郎でィ」
ぽつりとそう呟くと、沖田はおぼつかない足元で屋上を出た。
(何やってんだ俺ぁ…)
"ありがとう"も言えないで。
自分の哀しみを高杉が分かる筈がないのに、八つ当たるように接してしまったことを沖田は悔やんだ。
高杉に言われた通り、保健室にきた沖田だったが外から覗く限り、中に先生はいないらしい。
誰か寝ているのか、ひとつのベッドはカーテンが閉まっていた。
「ま……いいか」
とりあえず、自分で適当に手当てしてしまおうと沖田は静かに保健室へと入った。
薬箱の中をあさっていると、なにやらベッドがギシリ、ギシリと音をたてている。
(……今の高校生は元気だねィ)
おそらく誰かがヤっているのだろう。
昨日あんなことがあったからか、沖田は吐き気を覚えた。
はあ、とひとつ溜め息をついてベッドを横切った瞬間。
聞きたくない名前が俺の耳を掠めた。
「んっ…銀、八せんせぇ……!」
ぞわりと。
怒りに似た感情が背筋を走る。
(最低……)
固まった足をなんとか動かして、立ち去ろうとした瞬間、後ろから勢いよく、制服の裾を掴まれた。