そして次の日。
いくら嫌でも太陽は昇ってきて。心底、沖田はうなだれた。
泣き腫らした眼を見られないために沖田は早めに登校し、いつも使う、ふざけたアイマスクを素早く装着する。
(…ずっと寝てれば大丈夫だろ……)
ガラリとドアの開く音に沖田は反応した。
こんなに早く、誰がきたんだろうと不思議に感じた。――新八あたりだろうか?
足音は段々とこちらに近付いてきて、身構えた時にはもう遅かった。
「お、き、た、君」
「―――!!」
ぞわりと全身の神経が逆撫でされたようだった。アイマスクをしてても嫌でも分かる。
この声の主は誰だかが……。沖田はごくりと生唾を呑んだ。
「あれ、反応無し?」
クスクスと笑い、銀八は沖田の首筋をベロリと舐めた。
「っ……!?何考えてんでぃっ…誰かに見られたら!」
「……土方の痕は、もうすっかり俺に上書きされちゃったね?」
(―――え?)
どくんと心臓が小さく跳ね上がる。
締め付けるような痛みすら走った。
「ほら、ここに昨日までは土方のキスマークがあったのに」
カリッと耳朶を噛まれ、寒気にも似た感覚が背筋を走った。
「………っ」
声を噛み殺す沖田を、欲に濡れた眼で銀八は見つめた。
シャツの中に手を差し入れ、胸元をまさぐる。
「ここのも、俺が付け直した」
「―――黙れっ!!」
沖田はアイマスクを勢いよく外し、銀八を蹴り飛ばした。
大きな音をたて、銀八は教卓にぶつかった。
「…おー痛ぇ、ヒドいな沖田」
沖田はハァハァと肩で息をしながら、銀八を罵った。
「っせえ!!この変態教師が!もう俺に触れんじゃねえ!」
そう言うと銀八は妖しくニマリと笑った。
「まァ…そのうち沖田からお願いするようになるよ。"俺に触って"ってな――」
「――煩いっ!!」
沖田が叫んだのと同時に、教室のドアがカラカラと開いた。
「……?どうしたんだ、総悟」
キョトンとした表情を浮かべた土方がそこにいた。沖田はみるみる青褪めていく。
「ひ、土方さ…」
未だ銀八は教卓の前に座り込んだまま。
「…銀八も、何してんの?ぎっくり腰でもやらかしたか??」
「まー失礼。先生はこれでも27歳です、まだまだぎっくり腰っちゅー歳じゃねえよ」
ひらひらと手を振り、土方と会話する銀八が沖田には信じられなかった。
仮にも己を抱いて、汚した身だというのに。土方に対しての罪悪感を、沖田は感じられなかった。
「土方さん、今日は早いんですねぃ」
なんとか話を逸らそうと、沖田は何事もなかったかのように振る舞う。
――バレては、ならないのだから。
「ん、今日はな。
珍しくいつもより早めに眼が醒めちまって」
「なぁんか土方、オヤジくさーい。うわっ匂うわー」
「んだコラァア!臭くもねえし匂わねえよっ!!」
青筋をたてて怒る土方を見て、内心ホッとした。なんとか話題を逸らせたようだ。
それに、怒りだすと止まらないのでもう先程のことに触れられることはないだろう。