「銀八ぃー……もうそろそろ帰しなせぇ」
もうすっかりあたりは暗くなり、生徒は皆帰宅していた。
しかし、赤点を毎回とっていた沖田はとうとう銀八に掴まり、補習を受けさせられていた。
「あんまりでさァ、今日は予定があったのに」
沖田はペンをくるくると器用に回す。
やめなさいとでも言うようにパシッとそのペンを銀八は素早く奪い取る。
「しょうがないでしょうが。今まで散々補習逃げてきたんだ。今日くらい受けていきなさい」
「赤点って言ってもたまたま居眠りして、書けなかっただけでさァ。それなのに……こんなの横暴でぃ」
銀八に奪われたペンを取り返し、しょうがなくガリガリとペンをはしらせる。
言うだけあって沖田はスラスラと問題を解いていった。
「ほー…。やるねぇ」
関心したように言う銀八を見て沖田は踏ん反りかえった。
「だから言ってんだろぃ、居眠りしただけだって」
「じゃあ眠んなきゃ良かったでしょ」
「そういう訳にはいかなかったんでぃ。もう眠くて眠くて……」
沖田はムスッと顔を歪めた。
テストの前日、嫌だと言ったのに土方に無理に抱かれたことを思い出す。
それは朝方まで行われた。
そのせいでどうしようもなく眠かった。
「ともかく、早く帰りたいならササッと終わらせちゃいなさい」
「怠ぃー……あと5枚もあんじゃないですかぃ」
「それはサボってた分」
残りの枚数にげんなりしながらも、先程と同様すらすらと沖田は問題を解いていく。
沖田が問題に集中している隙に銀八は、ジッと沖田を観察する。
さらさらの蜂蜜色の髪と、吸い込まれるような真紅の瞳。
そして影ができるほどに長い整った睫毛。
女の子だと言われても違和感を感じないその容姿に銀八は甘い溜め息を漏らす。
ふと、銀八は沖田の首筋に赤い跡を見つけた。
「沖田、その首の痣どうしたの?」
そう言った途端、沖田はピクンと反応して慌てて銀八の方を見る。
「あ……た、多分、蚊でさぁ!!蚊っ!」
顔を紅くして、必死になる沖田を見て銀八は妖しく思う。
「でも……腫れてる訳じゃないみたいだよ?」
静止の手をはねのけ、首筋に手を滑らせばそれは一目瞭然だった。蚊なんかではない。
「……っ!蚊、でさぁっ!さわんなっ」
思い切り沖田は銀八の手を振り払った。
「嘘ついて……誰に付けてもらったの?」
耳元でそう囁かれ、沖田は背筋に甘い痺れを感じた。
「煩いっ…耳元でっ…しゃべんな!!」
いつもの冷静さを忘れ、必死に銀八の行為を拒む沖田を見て銀八は妖しく笑う。
「耳……感じる?」
「ぁっ……!」
ぺろりと耳の中を舐められ、沖田はつい、甘い声を出してしまった。