人込みを掻分け、迷惑そうにこちらを見る人達など気にもせず、土方は無言で沖田を引っ張って行く。
それに抵抗しようともがくが、なかなか土方は沖田の手を離さない。
「土方さんっ、いったいなんなんです…!」
約束が違うと沖田は思った。
土方がいいだしたことなのに、いったいなんのつもりなのか。
質問しても一向に答える様子のない、土方に沖田は段々と怒りを覚える。
「――仕事以外では関わらないって言ったくせにっ!!!」
周りなど、もう関係なかった。
沖田は腹の底から、土方に気持ちをぶつける。
「なんで旦那を殴ったんでさァッ!!」
「……少し黙れ」
土方は速足で、路地裏に入って行く。
ホテルに入り、チェックを済ませる土方を見て、沖田は慌てた。
「ちょっ……!!」
ジタバタと暴れたが、その抵抗も虚しく、沖田はベッドに押し倒された。
「嫌でィッ!!離せ馬鹿土方!!俺のことなんか嫌いなくせにっ!!只の性欲処理の道具と思ってるくせ……――!?」
沖田の言葉を塞ぐように、土方は唇を沖田に深く重ねた。
今度はいきなり唇を離されたかと思うと、胸倉を思いきり掴まれた。
「っ……!!何」
「――本当にそう、思ってるのか?」
鋭い眼でしっかりと見つめられる。
目線を逸らそうと顔を背ければ、優しく頬に手を添え、こちらを向かされた。
沖田の胸は不覚にも高鳴った。
惑わされてはいけないと首を左右に振る。
「……思ってまさァ」
その言葉がスイッチとでも言うように土方は沖田に覆いかぶさった。
口づけしようとしてくる土方を沖田は無理に静止させる。
「っ……!!だから俺はアンタのことが気に食わねーんでぃっ!!なんで話を聞いてくれないんでさぁ!?」
――いつも、いつもそうだと沖田は思う。
何か気に食わないことがあればことごとくケンカをしてきた。
けど、土方は沖田のことに対してはおかしいくらい消極的だった。
瞳に溜まる涙を零すまいと必死に眼を見開く。
しかしその努力も虚しく、一度瞬きをしたらポロッと涙が零れた。
「総……」
沖田の涙に動揺して、土方は慌てて沖田の上から退いた。
一度零れたしまった涙は止まることを知らないかのように溢れ続ける。