痛いほど沖田は土方の視線を感じた。


「総悟?顔色悪いぞ、大丈夫か?」


近藤にまた心配かけるといけないと思い、無理に笑顔を作る。


「ええ。なんてことないです」


そんな沖田を見て近藤は溜め息をつく。
手を頭の上にポンと置いた。


「――嘘つくなよ」


「……」


――じゃあどうしろと言うのだ。
土方が好き、でももう終わりだなんて泣き付けとでもいうのか。
沖田は泥沼に嵌まり始めていた。


ふと、顔を見上げると土方と眼があった。


驚いたような、傷ついたような顔でこちらをみる土方に胸が酷く痛んだ。キリキリと容赦なく沖田を締め付ける。


やっぱり罰が降ったのかなと沖田は思う。
副長と隊長という関係の前に自分らは男と男。

イケナイことを――禁忌を侵したから。

でも、それでも。
何度でも沖田は罰を受けるつもりだった。

世間にこのことがバレ、罵られ、罵倒されたって。
自分はこの人を死んでもいいほど純粋に愛してるといえると思った。


(俺はそれくらいアンタを愛してるのに……アンタは違うんですねィ……)


心も身体も繋がったと感じてた。
だけど土方は別の女も自分と同様に抱く。


沖田は裏切られた感覚で一杯だった。


もしかして、自分の一方的な勘違いかもしれないと思うが、あの時の土方の言葉は疑惑を肯定したようなものではないのか。


『もう……仕事以外でお前に関わらねぇから……』


――そうとしか考えられなかった。



なるべく早くご飯を食べ終え、逃げるように朝の巡回へと向う。
これ以上、土方に見られていたくはなかった。


「沖田隊長、聞いてます?」


隊士の1人が歩きながら、沖田に返答を求めた。


「あ……悪い、聞いてなかったでさァ」


頭が虚ろで何も考えられない。
自分でも眼の焦点があっていないくらい、ぼーっとしているのが分かる。


「――原田、後は宜しく」


「えっ!?ちょっ……隊長!!」


沖田はパトカーの所まで歩いて来た道を逆走した。
後ろで原田が叫ぶのが聞こえたがもう、どうでも良かった。


走っているうちに小腹がすいたのか、小さくお腹が鳴った。

そういえば、近くに甘味処があったのを思い出し、沖田は街をうろついた。


(確かこのあたりだった筈……)


キョロキョロと辺りを見渡すと、最悪なことに山崎と巡回する土方を発見した。


あちらがこっちに気付いていないのを確認し、改めて2人を観察する。


何の話をしているか分からないが、山崎が土方に笑いかけている。
そしてまた、土方も優しく山崎に笑い返していた。


沖田は胸に鉛のような重さを感じた。


「――あれ、沖田君?」

いきなり声をかけられ思わず、身体が跳ねる。慌てて振り向いたら、そこには銀時がいた。


「……旦那」


「何してたの?仕事??」

「――の、サボり中でさァ」


そう言うと、銀時はニマ、と笑った。


「んじゃあ、銀さんと食事でもしますか」


銀時は紳士のように、手を斜め上から振り降ろし、胸の前に置いた。

「似合わねェでさァ、ある意味傑作」


銀時に似合わない仕草に思わず、沖田は噴出す。"失礼な"と、銀時は頬を膨らました。


「いいですよ、一緒に食べましょう」


先程の銀時の行動が、よほどおかしかったのかまだ、沖田はクスクスと笑っている。


そんな沖田を見て、銀時の胸が騒ぐ。
別に好きな訳ではないが、この容姿で微笑まれると、流石の銀時でもドキリとしてしまう。

「言っとくが、奢んねーからな」


銀時はパチンと、財布の口を開けて中を確認する。
案の定、パフェ一杯分くらいしか入っていない。


それを見て、沖田は苦笑いした。


「旦那は相変わらず、ひもじいですねィ。しょうがねえ、今日は俺の奢りでさァ」


「マシでか。いやァ太っ腹だね沖田君!」


ニコニコと笑い出す銀時を見て、現金な奴だと沖田は思った。

これが土方なら、絶対に断るだろうなと思った。

何だかんだいって、土方は自分の信念はちゃんと貫き、仁義はきちんと守る。
そんなんだから、鬼など言われるのだと、何度も思ったが、沖田はそんな土方だからこそ好きになった。







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