節分


「オニはーそと!」
アパートのドアを開けた瞬間、日本人なら一度は聞いたことがあるだろうフレーズとともに、小さな衝撃が嘉寿穂(かずほ)を襲った。
咄嗟に頭を庇ったものの、強い力で放たれたらしく、顔にヒットしたいくつかが地味に痛い。
「痛い!痛いってば!」
「オニはーそと!オニはーそと!」
嘉寿穂が訴える声に耳を貸すこともなく、玄関に仁王立ちになった和史(かずふみ)は脇に抱えた木製の枡から豆らしきモノを手にいっぱい鷲掴んでは投げつけてくる。
腕の隙間から和史の様子を伺っていた嘉寿穂も、掛け声と豆で今日が節分ということは理解したが、なぜ自分が豆をぶつけられているのかはさっぱりわからなかった。
和史の顔が泣きそうに歪んでいるのを見て、痛みにこっちが泣きそうだよ、なんてことを考えながら、狭い玄関で逃げることもできずに攻撃を甘んじて受けていた。
「わー!ちょっ!なに、どーしたの!」
それも、中身がなくなったらしい木製の枡を振りあげた和史の姿を見るまでだったが。
さすがにそんなモノをぶつけられたのでは堪らない。慌てて和史に抱きつき、重たい枡を取り上げた。
もっと抵抗するかと思ったが、和史はあっさりと枡から手を離し、その代わりに空いた両手で嘉寿穂の胸を押し返す。
「バかずほー!お前なんか出てけー!」
泣きそうだった和史の声はすでに涙声で、鼻をすすりながら訴えてくる。
強い力で押し返されるのを更に強い力で胸に抱き寄せると、イヤイヤと首を振って腕から逃れようとする。

しばらく攻防を繰り広げた二人は、和史の背中にかろうじて嘉寿穂の腕が回っているものの、お互いの顔が見れる微妙な距離を保っている。
「お前、昨夜どこ行ってたんだよ」
その間に涙が引っ込んでしまった和史は、硬い声でそう質問をした。
嘉寿穂の微細な変化も逃がさないというように、数センチ身長が高い嘉寿穂の顔を上目遣いで睨む和史の瞳には怒りの色が浮かんでいる。
「・・・高野のとこって言ったじゃん」
「高野に電話したら、居ないって言われた」
「ぁっのバカ!」
「バカはお前だ、バかずほ!」
同棲中の恋人・和史に「高野とレポ−トをやるから」と言って一晩家を空けたのだが、口裏合わせを頼んだはずの友人に裏切られてしまったらしい。
大学に入って一層チャラくなった友人は、頭の中までチャラチャラになってしまったのか。

「俺に嘘吐いてまでどこ行ってたんだバかずほ!っつーか出てけ!」

>>>to be continued


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