「はぁ?他の男とイチャついた覚えなんてないけど」
篤は真性のゲイで、自分がマイノリティだという自覚はある。
小さい島国の大学という小さなコミュニティで、そんなことが暴露されればどういうことになるか十分わかっている。
陽介とも外で手を繋いだことさえないのだ。それを他の男とイチャつくなどあるわけがない。
「佐伯とかとよくつるんでるだろ」
「・・・飯食ったり同じ講義受けるのをイチャつくって表現すんのはお前くらいだろ」
「でも!俺以外の誰かが篤の隣に居るのに耐えられない!
篤だってそういう気持ちを味わえばいいんだって
それで・・・」
気持ちの昂ぶりがそうさせるのか、灰茶の瞳がうっすらと濡れ、じんわりと目じりが滲む。
「それで浮気ごっこなわけか・・・」
学部が違うのだから同じ講義を受けることもなければ、1日の時間割だって違ってくる。
それだって昼飯くらい誘ってくればいいものを。
馬鹿なストーカー男の主張にはただただ呆れるばかりで、やっと見えた浮気もどきの真相にもため息しか出ない。
とりあえず変態インポ説を流布することが目的ではなかったようだ。

「じゃぁストーカーは?」
「ストーカーじゃない!
篤の全部は俺のだろ!?
いつも篤を傍に置いておきたかっただけだよ!」
「いつも傍にって・・・
トイレの音とか精液ティッシュとか、んな綺麗なもんかよ?!」
思わず声が大きくなってしまったが、理解不能なストーカーの思考回路にここまで耐えただけでも頑張った方だろう。

ストーカーまがいの行為に疑念を抱くようになっても、浮気もどきに心が痛んでも、決して詰問することはなかった。
燻る感情を胸の奥に押しやって、何も知らない顔で求めるままに全てを差し出した。
”捨てられる時は潔く”なんて・・・捨てられるまで耐える覚悟をしていたのだから、目の前のストーカー男を笑えない。

「汚くたって構わない。
だって・・・お前のことが、好き、なんだ・・・」

陽介の勢いは削がれ、紡がれる言葉は掠れて今にも消えてしまいそうだ。


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