野蛮な女。彼女の評判はそういった類いのものばかりだった。 戦うことしか頭になくて、品の欠片もない。彼女が存在するだけで皇族の評判が落ちる……。 馬鹿馬鹿しい話だ。ナマエのことなんて何も知らないくせに。
「あのさぁ〜、ちょっとは身嗜み整えようとか思わないわけぇ?」
頬杖をつきながらそう聞くと、答えの代わりに鋭い視線が返ってきた。おお、怖い怖い。
「……そんなもの、戦いには不要なものだ。むしろ邪魔になる」 「そんなことないよぉ。木蘭って知ってるでしょ?あの人はとっても強いけど、すごく美人だったとも言われているんだよぉ」 「それはただの伝承。実際には存在しない」
……相変わらず釣れないなぁ。 ナマエの言う通り、木蘭は煌帝国で語り継がれている伝承上の人物。その伝承というのは、木蘭が自ら男装して従軍し、見事勝利を導くという内容のものだった。 だけど僕は、目の前でそっぽを向いているナマエこそが、本物の木蘭なのではないかと思っている。 普段から身嗜みに気を遣わない彼女だったが、顔自体はすごく端麗だし、戦っている時の彼女は凛としていて綺麗だった。 磨けば光る。だからこそ彼女に構っているのかも知れない。角の取れた原石にはきっと誰も用は無いって言うし。
「……それより、お前は大丈夫なのか?」 「ん〜、何が?」 「私と一緒にいると、お前まで評判が落ちてしまうんじゃないか?」 「……」
特徴的な鋭い瞳。彼女がファナリスであることを示す容姿の一つだ。 数週間前。煌に珍しくファナリスがいたものだから、彼女を連れていた奴隷商人にお金を払って彼女を引き取った。 最初は物珍しさで、ということもあったけど、彼女と話している内に段々と引き込まれていった。そんな僕の気持ちなんてかってないんだろうな、ナマエは。僕は苦笑しながら彼女の髪を弄った。
「馬鹿だなぁ、そんなことで僕がナマエから離れるとでも?」 「……え?」 「ナマエのことをそんな風に言う奴らは、本当のナマエを知らないんだよ」
無造作に結ばれた紐をほどけば、今様色の髪がナマエの背中に滑り落ちる。こんなに綺麗な髪なのに勿体ない。簪は手元にないから櫛で梳いて編み込みを入たり結ったりするだけだったけど、それでも十分に皇族らしくなった。本人は煩わしそうに眉を寄せているけど。
「私の髪で何をしているんだ?」 「ちょっとは皇族らしくなるように結ってあげた。これで綺麗な着物を着たら完璧!」 「……どうして私を皇族らしくする?お前が私の面倒を見る義務はないだろう?」
それは迷惑と言うよりも、驚きと言う感情が強いように見えた。にやり。思わず悪戯な笑みが浮かぶ。
「……お前が将来、皇族になるからだよ」 「……?それはどういう……」
ナマエの言葉は発せられることはなく、僕の口に塞がれた。暫くして口を離した後、こう告げた。
「ナマエが将来、僕のお嫁さんになるってことだよ」
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