第12話

秋から白蓮を尋ねてくるなど珍しいことだ。

思わぬ来客に白蓮は少々戸惑っていたが、すぐに快く秋の訪問を受け入れた。秋が白蓮の部屋に訪問してくるときは大概白雄に資料の山を押し付けられて手伝いを頼み込む…というか強制的に手伝わされるわけだが、今日の秋は資料を持っていなかった。

「どうしたんだ、お前から尋ねてくるなんて珍しいな」

「…少し、相談がありまして」

いつもの明るい笑顔はどこへやら、秋は神妙な面持ちだった。このような相談を白蓮に持ち出すのは如何なものかと秋は思ったが、見かけによらず白蓮も何かと繊細な心の持ち主だし、何より話しやすい。まあ座れよ、と白蓮は秋に席を用意した。秋はその椅子に腰掛け、正面に座っている白蓮を見据える。

「…白龍皇子が」

「白龍がどうした?」

ぎゅっと秋は着物の裾を握った。

「なんだか私に冷たいんです!」

「…冷たい?」

「はい!なんだか私を見ると不満気な顔になって避けられますし、声すら掛けられなくなって…私、なんかやらかしましたっけ?」

顎に手を当て、白蓮は考え込むような振りをした。少し心当たりがある。

「…あ〜…多分」

「え、やっぱり何かやっちゃいました!?」

「鈍感なお前に言ってもわからないだろうけど、白龍はお前に嫉妬してる」

白蓮はびしっと指を秋に突きつけた。まるで探偵が推理して犯人を追い詰めたような素振りだが、秋には何がなんだかわからなかった。

「はあ…嫉妬、とは?」

「…ごめん訂正。白龍は兄上に嫉妬してる。以上だ」

「いや以上って何故白雄皇子が嫉妬されねばならないのですか」

いくら恋愛に無頓着な秋と言えど、ここまで鈍かったのかと白蓮は腕を組んだ。昔から秋は白雄に想いを寄せていたのは確かだが、想いが通じ合ってからより鈍感になったような気がする。

「だから!白龍はお前に惚れてるんだっての!」

「……え」

暫しの沈黙が続いた後、秋が口を開いた。

「いやいやまさか。仮にも白龍皇子が私に惚れていたとしても、ですよ。何故に今さらなのですか?白龍皇子の態度が変わったのはここ数日の話。急に白龍皇子が私に惚れたとでも?」

「…そっか、お前あれ知らねぇんだっけな」

白蓮は腕を頭の後ろで組み、溜め息をついた。

「…あれ、とは?」

「何でもない。とにかく、これから兄上の言う事は全て信じたほうがいい。それだけだ」

白蓮は口の端が上がるのを抑えきれず、にやりと笑った。





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