第10話

牡丹雪がふわりふわりと降ってくる。雪景色に慣れ始めた煌の人々は、何かとこの状況を楽しんでいた。それは降らした本人も例外ではない。

「うわぁ…積もってきましたね…!」

まるで子供のように秋はきらきらと目を輝かせた。もし秋に尻尾がついていれば、きっと千切れんばかりに振っているだろう。それとは反対に白蓮の顔は沈んでいた。

「お前さぁ…俺が冬苦手だっての聞いてなかったのかよ」

「聞いてましたけど、私冬のほうが好きなんで」

最初こそ夏の暑さと雪の冷たさが調和して過ごしやすい環境にあったが、段々と雪が暑さを奪い、ついには本格的な冬のように冷え込んでしまったのだ。

「夏はこの服装が活かせるけど、冬じゃ寒いからねぇ。僕は夏がいいなぁ」

寒いよぉ、と秋に引っ付きながら口を挟んできたのは紅覇。女子力の高い皇子様だ。他人を美しくするのが好きな紅覇は秋のことを気に入っていた。もとが綺麗な秋に手を加えれば、もっと美しくなる。それがお気に召したようで。

「俺は冬が好きです。雪景色を見ていると、何だか心が洗われるような気がしますし」

お前の心は洗えるほど汚れてねーよと白蓮が弟に突っ込んだ。秋は時々白龍の周りに黒ルフがたかっているのを見たことがあるが、そこはあえて黙っていた。

「私は夏が好きよぉ。ヴィネアの力が秋の為に使えるもの」

にこにこしながら、紅玉は秋に寄った。今回このような現状に至ったのは紅玉のおかげでもある。よしよしと秋は紅玉の頭を撫で、白瑛に「皇女は?」と尋ねた。

「私は冬ですかね…。煌の文化を感じられますし」

穏やかな眼差しで白瑛は外の景色を眺めた。ふんふんと頷きながら秋は白瑛の意見を聞き、今度は年上組に振った。

「紅明皇子はどうです?」

「私…ですか?」

紅明は地図から目を離し、首を捻る。

「そうですね…。雪であれば視界が悪く足場も滑るため有利になるかもしれませんが、それはこちらも同じこと。夏は視界は良好ですが天候が不安定な上兵士の体力が消耗しやすいので、どっちもどっちかと」

頭の中は軍義のことでいっぱいらしい。秋ははあと曖昧な返事を返した。難しいことはよくわからない。

「紅炎皇子と白雄皇子はどちらが良いと思いますか?」

紅炎は少し顔を上げてからまた書物に目を戻し、「どちらでも」と答えた。紅炎の素っ気ない態度に秋は少々不満を覚えながらも白雄に視線を滑らせる。

「白雄皇子は?」

少しの間目を閉じ、やがて微笑を浮かべた。

「俺は冬派だな。先程から白龍や白瑛が言っているようなこともあるが…」

ぽん、と白雄は秋の頭に手を乗せる。秋は不思議そうに白雄を見上げた。

「こうやって従兄弟たちやお前と一緒に一つの場所に集えるのも、冬ならではのことだろう」

囲炉裏を囲んで、皆で語らって。こんなことはいつ以来だろうか、と白雄は嬉しそうに目を細めた。
秋はふふっと小さく笑い声を漏らし、白雄に体を寄せた。寒いから、などと秋は冗談っぽく言い訳をするが、単純に寄り添いたいという本心がバレバレだ。

「あれぇ?秋ってばいつの間にか雄兄と仲良くなったのぉ?」

「えへへ〜実は七姐誕の時に白雄皇子がジュダルにしっ」

「馬鹿!それを言うな!」

白雄の手で口を塞がれ、秋はもがもがと抵抗した。白雄の顔が真っ赤になっているのを見て、大体勘づいた紅覇はにやにやしていた。


雪景色に染まる夏の色は、徐々に本来の色を取り戻していった。



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