第7話

「なあなあ白雄〜。お前秋と付き合ってんだろ〜?」

腕を首に回し、まるで親友同士が仲良くじゃれ合っているかのようにジュダルは白雄に話し掛けた。座りながら書物を読んでいる白雄は煩わしい、と眉をひそめる。それくらいでジュダルは引き下がらない。

「白蓮から聞いたぜ。七姐誕の時に告白したんだろ?」

「…しつこい」

白雄はジュダルの腕を振り払い、書物に集中しようとする。が、ジュダルがすっと白雄の懐に手を入れ何かを取り出した。

「ふーん。綺麗な刺繍だな。秋からの贈り物か?」

「…!?返せ!」

立ち上がり、刺繍の入った手巾を取り返そうとする。勢いが余り、ジュダルを押し倒すような形で白雄は倒れ込んでしまった。

「……皇子……!?」

はっとして、白雄は部屋の入り口を見る。そこには明らかに動揺している表情で秋が立っていた。手にしている書物は白雄が持ってきて欲しいと頼んだ書物だ。

「すっ…すみません!!お取り込み中失礼しました!!」

書物を手にしたまま秋は足早にその場を去っていった。残された白雄とジュダル。白雄の顔がさっと青くなる。

誤解された。…完璧に変な誤解をされた。

「お…おい待て秋!誤解だ誤解!!」

倒れたジュダルをそのままに、白雄は秋を追いかけた。

(…なんか浮気現場を見られた夫みてえだな)

起き上がりながらジュダルは頭を掻いた。あんなに慌てている白雄を見るのは初めてかも知れない。いいもん見た、と口角を上げ、白雄の弱味を握ってやったと何処か勝ち誇ったような気分でジュダルは部屋を後にした。


とんでもないものを目撃してしまった。混乱している頭を何とか整理しようと、秋はただ只管廊下を歩き回っていた。

従者として主を応援するべきなのだろう。愛は性別を越えるとも言うし。まさか己の主が、そんな趣味を持っていただなんて。

否定するわけではない。認めたくないだけ。

つい先日、白雄は秋を抱き締めてくれた。贈り物もくれた。想いが通じたと思っていた。


…それは、単なる思い上がりだったのだろうか。


悶々と考え込んでいると、秋の前方から以前知り合った三人の人物が歩いてきた。向こうも秋に気づいたようで、三人のうちの一人が朗らかに笑みを浮かべて声を掛けてきた。

「秋様。お久しぶりですね。何か考え事ですか?」

「純々、麗々、仁々…」

声を掛けてきたのは純々だった。ぼんやりと秋は三人の顔を見詰めた。

彼女たちは紅覇の従者だ。魔力を手に入れる際に身体の一部が腐敗したらしく、所々に包帯を巻きその上からお札を貼っている。

目に包帯を巻いているのが純々。手にお札を貼っているのが麗々。腹に包帯を巻いているのが仁々。

彼女たちに紅覇が手を差し伸べる少し前に、秋は彼女らと接触していた。その時にとある切っ掛けが起こったのだ。

その切っ掛けというのも本当に些細なことで、彼女たちとすれ違った時に、秋から彼女たちに少し声を掛けただけのことだった。それだけでも彼女たちは秋を「優しいお方だ」と感激し、それ以来秋を慕うようになったのだ。

大袈裟だし同じ従者なんだから、と秋は謙遜していたが、彼女たちはどうしてもとその接し方を変えようとしなかった。

「…ねえ純々、麗々、仁々」

「はい」

この三人は男性の主に仕える従者だ。男性の主を持つ彼女たちなら、何か意見を貰えるかも知れない。

「もし、だよ?紅覇皇子が、ホ…じゃなくて、男性を愛していたとしたら、どうする?」





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