第5話

「もうすぐ七姐誕だな」

資料を片付けてい最中、白雄が一冊の本を片手にぽつりとそう呟いた。秋は作業の手を止め、白雄の持っている本を覗き込む。

「七姐誕って…夜七姐と牽牛が年に一度だけ会えるってやつですよね。他国では『七夕』と『織姫』『彦星』って呼ばれているんでしたっけ?」

「…やけに詳しいな」

ふっと笑い、白雄は本を眺めた。七姐誕について綴られているその本を、幼かった白龍や白瑛に読んであげていたのを思い出した。

「他国では七姐誕の時に笹の葉に短冊という願い事を書いた紙を飾るそうですよ」

「ほう、そうなのか」

煌帝国の風習としては、紙紮店で七姐衣を買い求め夜七姐を祭る際に使用する。また男女間で贈り物をしたりと、恋人同士が愛を確かめあったり、新たな恋人が誕生する場でもあるのだ。

「白雄皇子は何方に贈り物をするんですか?」

「…は?」

言わば想いを寄せている相手を聞くようなものだ。にやにやしながら、秋は白雄に迫る。

「何方かいらっしゃるでしょう?」

「…っ、う、煩い!」

普段は冷静沈着な白雄がここまで動揺するなんて。秋は仄かに頬を紅く染めている白雄を見て、これは想い人がいると確信した。

「…そういうお前はどうなんだ」

逆に聞き返される。自分は答えてないくせに狡いと思いつつも、秋は笑顔で答えた。

「…いますよ。贈り物をしたい男性が。誰なのかは内緒ですけどね」

秋は何がいいですかね〜、と楽しそうに資料の片付けを再開した。白雄はそうか、とだけ言って本を棚に戻した。


* * *


「あ・に・う・え!」

白雄に後ろから抱きついた白蓮は、兄の肩に顔を置いてにやっと見上げた。

「もうすぐ七姐誕ですけど…何方かいらっしゃらないんですか?贈り物をする相手」

「…白蓮…お前もか…」

秋と白蓮はよく似ている。行動も、思考も。白雄は問い詰められる前に、質問を返した。

「ならば聞くが、お前は誰にあげるつもりなんだ?」

すると白蓮は露骨に顔を赤らめて、白雄から離れた。

「いやいやいや!俺にはそんな女性いるわけが…」

「いるんだな」

相変わらず嘯くのが下手だ。図星らしく、白蓮はうっと言葉を詰まらせた。今度は白雄がにやりと笑う。白蓮は観念したかのように、気まずそうに口を開く。

「…いますよ。大切に想っている方が」

「恋仲なのか?」

「いや恋仲っていうか…俺のただの片想いなんですけどね」

へへっと照れ臭そうに笑う白蓮。何処か引っ掛かるところもあったが、弟に恋人が出来るのは喜ばしいことだ。

「…ま、せいぜい頑張るんだな。尤も、お前を受け入れてくれる相手がいればの話だが」

「兄上酷い!!」

その様子を、白瑛と白龍はくすくすと笑いながら見ていた。

明日は七姐誕だ。






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