もうこない春のおはなし

 高校最後の春。皆受験受験とぴりぴりしている今日この頃。そんな中で行きたい大学も特にないし、これからどうしようと思っている女子高生がここに一人。皆よくはっきりと決められるなあと思う。こんな夢があるからここに行きたい、なんて明確なものを私は持っていない。そんな私の足は皆のように塾などへ向くはずもなく、まっすぐ自分の家を目指していた。

 花の女子高生一人、帰り道を闊歩する。闊歩っていい響きだなあなんて思いながら、先ほど言われた言葉を思い出す。
「歌生も高3になったんだ、さすがに進路を固めないと。」
担任は苦笑いを浮かべながらそういった。

 最初、父の仕事である植木屋がいいと思っていた。しかし、それは当の父が許さなかった。
「お前は草木が好きなのはわかっている。だがお前はもっと別の道に進め。他にやりたいことをやったらいい」
そう言われたが、私には昔から慣れ親しんだ、草木しか楽しみがない。それを取り上げられた私には、ほかにやりたいことなんてあるわけがなかった。
大学に進んでも、やりたいことがなければ無駄に終わってしまう気がする。専門は目標のない私には余計に駄目だ。得意としていることなんてものもない。
 そう考え始めると、私という人間はとことんつまらない。私には何にもない。何にも。
そんなことを考えていたから、真横からスピードを出して走る車にはちっとも気づかなかった。


 突然の衝撃。私の体に激痛が走る。痛みに顔が歪む。起き上がろうとしても力が入らない。
なんで。なんで。なんでいうこときかないの。
そっと頭に手をやると、どろりと温かいものが指に触った。
見やるとその手は自分の血液で真っ赤に染まっていた。
ああ、終わりまでもがあっけない。ふとそんなことを思った。

「環っ!」

私の名前を呼びながら誰かが近くに駆け寄る。この声は、あの子に違いない。
「早く!救急車呼んで!環、今救急車来るから!ね!しっかりして、目開けて…っねえ環っ!」
止血をしようとタオルをあてがってくれていることがわかる。今にも泣きそうな彼女の声を聴きながら、少し微笑む。彼女は私の表情に気づいているだろうか。
つまらない、不慮の事故。大したことじゃないはずなのに、あの子を泣かせてしまう。
彼女への言葉を彼女に渡せずに、暗闇に落ちた。



『瞑、ごめんね』




環の生前、というか死ぬ時の話
受験期で、モラトリアムに襲われている時期


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