真夜中哀歌

「六診さーん、いるー?」
「はーいいるよー」
 いつものように家にあがる恂くん。私は二人分のコーヒーを淹れ、玄関へ迎えに行く。
 組の人間に急患がいればすぐに診られるように、と言いながら私が生活をするためにボスが与えてくれた部屋。仕事場は別に大きな一部屋を与えてくれたというのに、ボスはあの笑顔で何も言えなかった。彼にはよくしてもらって、本当にありがたいと思っている。
「今は大丈夫?」
「うん。今日は平和。誰からも連絡がない。怪我がないっていうのはうれしいなあ」
「珍しいね」
「来てくれると手術し放題だから、わたしとしては来てくれたっていいんだけど」

 外科医としてはうってつけの仕事場だ。怪我が多いここではわたしの実力が試される。失敗すれば彼らの運命が大きく変わる。そういう環境は私の向上心をくすぐるのだ。
 私は林々組のボスに医者としての腕を買ってもらった。仕事にありつけない私にそこまでしてくれたのだから期待に答えるべく働く。お金はもらわなければやっていけないけれど、組の人達をできるだけ救いたい。少しでも必要とされていることが喜ばしい。
 それはたとえ他の組の人であったとしても同じことだ。必要だと乞われれば答える。お金を払えばそれだけの仕事をする。これが私のスタンスだ。
「恂くんの体は縫いたくないけど、なんかあったら私にすぐ言って」
「縫うの前提なんだ、あとオレのことそんなに心配しなくていいのに」
恂くんは笑って言うけれど、私にとって大切な彼のことだ。私は恂くんを心配しすぎなくらいがちょうどいいと思う。

「ねえ六診さん」
「うん?」
彼が真面目な声で問う。
「もしオレが死んだら、オレの骨拾ってくれる?」
唐突なその問いに私は彼が求めていた答えを返すことができただろうか。
「…骨になる前に迎えに行くから」

彼はありがとう、と笑って私を抱きしめた。
彼のぬくもりと鼓動に安心した。彼はいまここにいると。
それと同時に不安の波が押し寄せる。
なんでそんなこと聞くの?何かしくじったの?
そう聞きたかったけれど、彼は答えてくれないような気がした。


翌日、連絡がとれず、嫌な予感がした。案の定だった。


彼は殺された。

彼の遺体はひっそり私の家に真夜中に運び込まれた。彼の身体に触れる。昨日までの温かみが嘘のように消えていた。冷たい。人ってこんなに冷たかったっけ。医者の私は何度も遺体を見てきているはずなのにわからなくなっていた。
あんなに心配していたのに、なぜ私は送り出してしまったんだろう。彼は、彼だけは失いたくなかったのに。


「恂くんほんと好きー!」
私は彼をぎゅっと抱きしめる。
「あはは六診さん苦しーよー」
答えるように、彼は強く私を抱きしめてくれた。
「うわ、恂くん逆に私が死ぬって!ぎゅーってされるのも好きだけどさ!」
「六診さんが腕の中で死ねるならそれが一番いい…」
そうやって幸せそうな彼が好きだった。彼に愛されてることが、幸せだった。
あの記憶は遠い昔だったような錯覚に陥る。


私、もっと君と居たかったよ。
これからどうやって生きていこうって思うくらいには、好きだった。

寒いよ。
この部屋は独りじゃ広すぎる。
きみがいなければ、私は強くはなれないの。
いつものようにぎゅっとして、あっためて。
好きだ、とその口で言って。

恂くん。

涙を流せど彼の手はそれを拭ってはくれない。
待てど暮らせど、彼の声を聞くことはできない。

私は彼の冷たい唇にキスをする。
言葉を紡いでいだ彼の唇はつめたく、かたかった。

受け入れなければ、と一人泣いた。






ka:iさん宅恂くんお借りしました
恂くん死ネタ、報われない恂六を受信した結果がこれ


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