暗殺 #負けたり、勝ったり、負けたり



赤羽が何を考えてこうしているのかなんてことは、僕にとっては大した問題じゃなかった。
こうして彼が跪いて僕に従っているのが、どうしようもない快感で、忘れてしまっていたんだ。この悪魔がそんな風にすんなり陥落するなんて、ありえないということを。
つまりは大きな問題だったわけで、僕は愚かなことにそれに気づかなった。
「浅野クンって、こんな趣味あったわけ?」
うんざりしたような声音で眉を寄せ、ピラリと僕が用意した衣服をつまむようにめくって、また「うわ」と嫌そうな声を上げる。
散々体を重ねてきて、マンネリ感を感じてきた頃、赤羽が「浅野クンがしたいシチュでヤろよ。」なんて言ってきたから用意したものだったけど、今思えばはめられていたことになぜ気付かなかったのか。
「浅野クンがどしてもシたいってんなら、いいけどさァ」
ベロンと舌を出して挑発してくる赤羽にはツノとしっぽが生えている。
その瞳は明らかに興奮仕切っているのに、僕が望んだ形になっていないのはなぜだろう。…赤羽はやっぱり赤羽だった、というだけか。だけど。

「そうだな…。シたい、赤羽」
「へ…、は、イイよ、シよ」
動揺してるみたいだね。全国模試1位は伊達じゃないんだ。僕の頭の回転の速さはたぶん、君と同格だ。この状況下においたって、僕にできることはいくらでもある。
ニーハイソックスに布地の少なすぎるメイド服。それから、見えていなかったみたいだけど、首輪も用意しているんだよ、赤羽。
それから、ここ最近の行為中の彼を見る限り、そうやって余裕で居られるのも本当に今の内だろうしね。
ほくそ笑んだ僕の顔を、彼はたぶん見ていない。


「…ねえ、これ」
「何か問題があるかい?」
「ックソ!」
チ、と舌打ちして、うつむいたその顔はたぶん屈辱に歪んでいるんだろう。散々悪趣味、とか、なんでこんなの持ってるの、変態、だとか言いたい放題僕を罵った後、それでも自分で言ったことを、今更曲げられないのか、最後には黙り込んで首輪まできちんと装着した。こういう性格は結構損だと思うね。僕にとっては都合がいいけど。


「や、ヤァ!あさの、くんッ!や、だってば!」
前まではこうやって、息を吹きかけるだけでは何の反応も示さなかったのに、くすぐったいくすぐったい、なんて口ではいいながらも、しっかり性感として感じているのはお見通しだ。
ふぅっと柔らかな素肌に息を吹きかけるだけでもいい反応が返ってくるから、最近のセックスは楽しい。別にマンネリってこともなかったような気がするが、赤羽はそうでなかったらしい。もしかしたら、そうやって嘘をついて僕を嵌めようとしていたのかも知れないけれど。
「ん、ひゃ…ッだから!やめてっ、てば」
「そうか」
たぶん、赤羽はもう目的を忘れ、焦れている。いつもは僕も余裕なく、性急に求めてしまうところがあって、それに流されていればいいだけだけど、今日はそうもいかない。君を支配するためなら自分の欲くらい、多少は抑えるさ。
ピタリと動きを止めると、潤んだ目が不思議そうに僕を見つめていた。
「は…ッなん、で」
「嫌なんだろう?」
にんまりとわざとらしい笑顔を作ってやると、ようやく意図に気付いたようで、ギッと睨んできた。殺気を感じるけど、この状況でそうなられても、特に痛くない。
「ぃ、やだけど…………察しろバカ」
「うん、察してるよ。敢えてしないんだって、わからないのかい?」
いや、とか、でも、とか、うるさい、とか言い淀んだ後、「ちゃんとシて…?」なんて、こてんと首を傾けながら言う彼が何を考えているのかはやっぱりわからない。でも、これがハニートラップだとして、まあいいかなんてことを考えるあたり、僕は大分彼に毒されたな、と思うけどね。
「…ほら、ちゃんと言ったでしょ。もー、いいじゃん、早く。このクソ恥ずかしい格好、我慢してやってんだからさ」
「ああ、」

少し捲り上げるだけで、もう熟れた胸元の飾りが露わになるこの服、着ている赤羽はさぞかし恥ずかしいだろうな。と哀れんだりするが、それ以上に可愛いと思う。僕が選んだのだから僕好みなのは当然なんだけど。
「っはやく、」
こんなに煽られて、いい加減僕も我慢ができなくなってきたところだった。ピン、と立ち上がったそこをこねくり回して、舌を這わせる。甘やかな声が絶え間なく頭上から鼓膜に響いて、ずくりと下半身が余計に重くなった。
「んん…ぁん、ッ、ンンン…」
恥ずかしそうに口を塞ぐ手を振り払って、キスをしてやる。こうしてやると、いつも、必死になって応えてくれる。シワになりそうだなくらいしっかりと掴まれたシャツの代わりに手を絡ませて、ぎゅっと握る。嬉しそうにへらっと表情を柔らげた彼がいじらしくて、愛おしかった。


「…も、これ、外してよ」


ぺらぺらの、レースがふんだんに使われたメイド服…正直全く似合ってはいないけど、それはそれでいい。
まあ、一回やったら満足してしまって、二回戦までに全部剥いてやったんだけど、首輪だけは如何しても外せなかった。
赤羽は悔しそうにしていたけど、
「いやだ。一生僕のものだから」
なんていうと、黙り込んで布団にくるまった。…今日は僕の勝ちみたいだ。



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