暗殺 #嘘だってば



行為の後、ほんの少し我に冷静になった頭に叩き込まれたのは、とんでもない言葉だった。
「自殺しよっか、浅野クン」
荒い息が治りもしていないのに、いつもの笑顔で日常会話をするようにそんなことを言うカルマに、一瞬で浅野は凍りついた。

浅野が言葉の意味を理解した後もその表情はずうっと変わらなくて、浅野は次第に、悪い冗談であってくれと願う事しかできなくなっていった。
瞳孔の開いたその目が何を考えているのか読めなくて、困惑したまま口を開けて次の言葉を待っても、カルマは口を開かない。
「な、にを…言ってるんだ、君は」
乾ききった口から出た言葉は情けないことに掠れていて、カルマはそれをケラケラ嗤った。
「言葉通りの意味だよ?死のうよ、浅野クン」
聞き返したこちらの方が間違っているとでも言いたいような声音だったから、きっと何度聞き返しても違う答えは返ってこないと察した。
これが本気なのか、はたまた悪い冗談なのかはわからなかったけれど、死なれたら困るし、死ぬ気なんてない。ふざけるな、と怒りすら覚えた。
「赤羽…冗談はよせ」
キツめの口調でそう言っても、カルマは笑っていて、いよいよ気が狂ったのか、と今度は心配になってきて、そろりとカルマを見やるとまだ笑っている。
「ははッ、まじもう浅野クンおっかし。冗談でこんなこと言うと思った?ねね、死のうってば」
カルマの思う死は、決して軽いものではない。それくらいは浅野だってわかっている。だからこそ、冗談であって欲しいと思った。冗談でなくては困る、と。
カルマとしてはたぶんもう決定事項なんだろうな、ということも、十二分に理解していた。だから、どうしようもない。お互いの考えが真逆なこのままでは平行線のまま進まない。
「どうして、」
言葉に詰まった。「どうして死にたいんだ」なんて、軽々しく聞くものじゃない。でも、カルマはしっかりそれを汲み取ったらしかった。
「え?だって、いま死ねたらサイコーじゃん。浅野くんとセックスして、浅野くんと一緒に死ねるんだよ?あ、死ぬのヤ?じゃあ殺してくれる???」
いよいよ彼の言っていることがわからなくなってきて、ガンガンと頭が痛んだ。
「…それでいいのか。それなら満足なのか。これからは、どうするんだ。」
一言ずつかみしめるように言葉を紡いた。そうでもしないと、カルマにとって都合の悪い言葉ばかりが出てきそうだったから。カルマとともに過ごした時間はかけがえのないもので、これからもそうだ。だが、カルマがそうでないならどうだろう。
無理にでも一緒にいるのか?それでいいのか?といった考えがずっと回って、この言葉しか出てこなかった。
「これからなんて、どうなるかわかんないじゃん。今がいい。今死にたい。」
すっぱりと言い捨てたカルマに、浅野は答えを出した。
「…そうか。わかった。じゃあ、一緒に死のうか」




・ ・ ・



「ッははは!サイコー!浅野クン、ホントサイコー。大好き。」
突然笑い出したカルマの表情が、いつものような悪い顔で、浅野は試されていたんだと理解した。
「僕を試すなんてね…赤羽」
「何を思ってるのかとか、読めすぎ!ほんっとかわいいよね
「嘘に決まってんじゃん。これからだって、ずっと一緒にいたいよ。」
「それは良かったよ。君が言うなら死んでもいいけど、まだまだ人生を謳歌したいからね」
「ハハッ!ご一緒してもいいですか?」
「もちろん」



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