暗殺 #好きだって、こうじゃなきゃ言えない




俺としては、こうして会えばセックスするような関係になってしまったのが不満だったはずで。
セックスなんか、しなくたっていいじゃんって、あの時俺は言ったんだ。浅野くんも同意してくれた。

浅野くんと言い合ったり、競い合ったり、たまに真面目に勉強したり、遊び歩いたり…そういう風にしているだけで、俺は充分だった。

セックスなんて、知らなきゃ良かった。
怖いくらいに気持ちよくなんて、なりたくない。自分が自分じゃないみたいだし、浅野くんだって浅野くんじゃないみたいに見えるし、こんな、お互いの理性のタガが外れた状態でしてたって、こころがぜんぜん満たされない。
それとも、俺の思い描いてたのが間違いだったんだろうか。もっと幸せで、満たされるもんだとばかり思ってた。
だけど、浅野くんがシたいならって、そう思ってたのは本当で、だけどだけど、こんなのってないよ、って思ってるのもホント。
でも、なのに、俺自身まで俺を裏切ってきた。
だって気持ちいんだよ。それだけで頭が真っ白になって何もかもどうでもよくなるんだ。

1週間があまりに長く感じて、浅野くんとは毎日顔を合わせてるのに、あっちは普通なのに、って。欲しがってるみたいじゃん。浅野くんを拒んだのは俺の方なのに。

そうやってもだもだすんのも、やだった。


やっとやっと1週間経って、浅野くんがうちにやってきた。ここまでくるともう俺はシたくてたまらなくて、ずっとそわそわしてたんだけど、バレてなくて一安心。それと、浅野くんもシたかったんだ、ってのにも。
ぼっすりとベッドに押し倒されて、あ、上手くなってる…ってびっくりした。ついこの間まで何もかもが下手だった浅野くんなのに、あの一件から学んだのかな。下手くそだとかなんとか散々言っちゃったからなあ…。
「この間は無茶をさせてしまってすまない。今日は優しくする」
「う、ん…あ、浅野く…んっ…ゃ、」
ちゅ、ちゅ、とさすがにこれはまだ慣れてないらしいキスをして、優しく脱がせにかかったりするもんだから、俺は混乱した。余裕が生まれてきたと言っても俺に比べたら全然だったはずなのに。
「な、ゃ…!そ、そんなとこ…ッ気持ちくない、っ!」
期待なんかしてないのにピンと立ちあがった胸元をこねくり回してきたりするから、慌てて気持ちよくないって制止したっていうのに、浅野くんは弄うのをやめてくれなかった。
「そうかな?気持ちよさそうだけど」
こうもデリカシーのかけらもない感じに言われちゃうと、図星だったのもあって、カッと頬が熱くなる。もう、言い訳の言葉も見つからない。あまりにも浅野くんが余裕すぎて、俺の余裕はどんどんなくなってく。
「あぁッ、ヤ、やぁ…!」
どんどん自分の体が変わっていくのが怖い。


それに、

「ん、ぅ…、ひゃ…ッ」
ベロ、と舌を這わす浅野くんが、今までは可愛く見えてたのに、こうやって自分が余裕を失った状態だとなんとなく、怖いなんて。浅野くんは浅野くんらしさを取り戻しつつあるのに、俺はって。


俺が優位に立っていたいっていう気持ちが確かにあって、それが今まではちゃんと「そう」あれて、「そう」じゃないのが想像もつかなかったんだ。
だから今「そうじゃない」状態になってしまって、対処の仕方がわかんないんだろう。
誰だって、未知の領域は怖い。自分がこのまま理性を失って、自分でも見たことのないような自分を晒すことも、こういった場面で、自分より優位に立つ浅野くんを見るのも、怖かった。
なんだ。それだけじゃないか。


…それに、俺は浅野くんとこんなことしたいんじゃない。やだって、嫌なの、やめろ、やめて。
「赤羽…?」
これでもかってくらい近づいた瞳が、不安げに揺れている。こんな風に俺をいたわるなんて、今まで一度だってなかったのにって、そう思うと、それだけで嬉しくて、ほだされてしまうなんて、柄じゃないのに。強がるのも、我慢するのも、俺らしくはないのに。
「ん…、なんでもない」
なんて言っちゃうんだ。ホントわけわかんない。


「そ、いえばッ、この間のやつ、許してないんだから、ねッ」
ぐい、っとそのまま挿入してきそうな浅野くんを慌てて制止した俺は、前回の惨状を思い出して怒りに震えた。
浅野くんの野郎は(忘れてた俺も悪いけど、)ゴムを使わないで突っ込んでそのままナカにせーえきぶちまけてくれやがったんだった。…そんでもって俺は、その仕返しをまだしてなかったんだった。
「?この間…、確かに無体を強いたことは謝るが、…そんなに許せないほどだったのか…?」
俺に酷いことしたっていう自覚はあるらしい浅野くんだけど、まさか、そんな…ねえ?
「ハァ?浅野クン、この間のこともう忘れちゃったの?1週間しか経ってないよ?キミが俺のナカにせーえきぶち撒けた上にさらにサカっちゃったの忘れちゃったの?浅野クンってバカぁ?」
できる限りの余裕げな笑みで、俺は浅野くんを挑発する。口ぐらいでは勝っておきたかった。もう、それ以外は降伏せざるを得ないんだから、って。
浅野くんがそれにノッて暴走する、なんてのを想像できないわけがなかったのに。
そう、思いつかないはずがなかったのにこんなことを言ったのは、そうして欲しかったのかもしれない。今の俺みたいに、虚勢張っちゃうくらい余裕を失えばいいんだって、心の中では思ってたのかもしれない。

だから浅野くんが俺の思い通りに動いてくれたことに、内心ではほくそ笑んだんだ。
体が軋むくらいに強く抱きかかえられて、思わずうめき声が上がってしまう。中学の時にはほとんどなかった体格差がここ最近でできたような気がして、内心面白くなかったけど、浅野くんを見上げる機会が増えて、こういう風に抱きかかえられる時には、背中の広さとかその力強さとかに頼り甲斐を感じるから、好きだ。

別に女の子になりたいわけじゃないのに、これは一体なんだろう。ただ、中学の時は体格差も殆どないのに俺がなんとなく受け身側っぽいのが気に入らなかったけど、こうして俺が受け入れる側になるのを、成り行きとはいえ受け入れたのは多分、浅野くんがこんなにも男らしくなったから。


「ふ、ふはッ…あさの、くん、いーよ、キて…ッ」
こんな風に誘う余裕なんてこれっぽっちもないのに、俺はまだ意地はって浅野くんの前では「こう」ありたいからって、無理してる。
俺が浅野くんのいいように抱かれるっていうのは、絶対に嫌だった。対等でありたい。そんな、女の子みたいな風にされるのは死んでもごめんだった。
「ッ、赤羽…、あかばねッ」
余裕なくガツガツ穿たれて、痛みに視界が歪むけど、このくらいの方があんな風に我を忘れてしまうよりかは全然マシだった。
理性を保っていられるうちはまだ、浅野くんと対等でいれるから。
「好きだよ、浅野クン」




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