暗殺 #怯えるけもの



カルマはいつだって愛に飢えている。
−−−愛されなければ、生きる意味もなくて
そうして今まで生きてきた。本人たちに自覚なくネグレクト気味な家庭環境が原因の一つかもしれない。
−−−生きていくには、愛されなければ、ならない
生きている意味がそれである為、カルマはいつでも不安を抱いている。
愛されなかったから?或いは、愛されていると信じていた者が『死んで』しまったから?
だからかももうわからないが、カルマの愛情表現は少しいびつだ。
「あのさ、センセイはね、時々俺を抱くの。殺せんせーは、しないんだね。」
本当に不思議でたまらないというように、さらっととんでもないことを暴露しつつ、とんでもないことを言い出すから、殺せんせーは今なら殺されても仕方がないと思うほどピタリと固まった。
カルマはそれを見、隙を突けるのが嬉しいのか、にっこり笑いながらナイフを突き立てた。結果はギリギリのところで我に返った殺せんせーが避けて、おじゃんだったが。
「あ残念。殺せるかと思ったのに。なぁに?そんなに驚いた?」
あははといたずらな笑みを浮かべて、本当に無邪気にしている。
「カルマくん、それは…−−−」
「俺さぁ、それ、愛だって思ってたんだ。ずぅっと。でも、先生ってばさ、最後にこういったの。『もう用はないが、身体は本当にイイ子だったよ。この淫乱』ってさ」
静かに聞いていた殺せんせーの顔が、どす黒い色に支配される。
(どれだけ、その男に傷付けられたのだろうか…この子は、なんて−−−)
「カルマくん、ええっと…」
それじゃあ、あんまりにも、
(かわい、そうだ)
カルマは聡い子だから、きっと薄々勘付いていたのだろう。おかしいと、ほんとうは。
それを無理やり押し殺してでも、その男に縋り付いてまで、愛情を求めていたのか。
殺せんせーが言葉をなくしていると、聡い子、そう、本当に頭がいいからカルマは、グッと唇を噛んで俯いた。その表情は伺えなかったが、しまった、と思った時にはもう遅く−−−
「ハ、ハハ…せんせーも、そんな態度取るんだ。ドン引きした?それとも、…可哀想、って思った?どっちかでしょ」
ギッと殺せんせーを見上げた時には痛々しいほど噛み締めた唇を戦慄かせながら、瞳を潤ませて、でも決して涙を流したりしなかったのが、より一層殺せんせーを罪悪感に苛ませた。
誰にも言えないようなことを、殺せんせーだけに相談したのは、それだけ殺せんせーを信用していたし、殺せんせーなら何か楽にしてくれると思っていたのだ。
「せんせ、あの、さ」
「?どうしました?カルマく、ん?」
ぎゅう、と己の腕を掴んでいた手が震えながらもしっかりと殺せんせーの触手を取った。
じっと殺せんせーを見つめる目は、渚なんかよりずっと小動物のようで弱々しい。
あまりに衝撃的な出来事に呆気にとられているうち、カルマの少し赤らんだ顔が視界を埋める。
「ん…」
ちゅ、と控えめなリップ音を鳴らしながら、何度もなんどもキスをされて、されるがままに押し倒された。
カルマから殺気を感じられないし、止めようにも止めたら壊れてしまいそうで、殺せんせーは何もできなかった。
ただ、そう、あまりにも哀れで。
意図が読めたって、どうしても−−−できなかった。
「んむ、センセ。おれ、悪いこと、するよ。ごめん、ごめんね。どうか、止めないで。お願い」
以前カルマは教師としての殺せんせーを殺そうと奔走した。結果は失敗に終わったが、奥の手として考え、考え抜いてやめたこと…。
教え子に性的なことをさせるってこと。あいつみたいに。
それはあの段階では誘惑したとして無駄だと判断したし、それで殺したとして、カルマは周りに何と言われ、思われるだろうと考えて諦めた方法だった。
でも、今ならできるし、してくれるし、して、欲しい。
絶対に殺せんせーは突き放せないと、今までの付き合いで分かっている。
でも、これは倫理に反する行為だから。あの男がしてたみたいな、いけないことだから。…決して、許されちゃいけない行為だから。
教員免許の剥奪も大いにありうるし、よくても追放は確実にされるだろう。
カルマの望むことじゃない。今は、純粋に殺せんせーを殺したいのだから。こんなの、間違ってるって、でも。
「愛してよっ、愛されることは俺にとって生きてる理由なんだ…愛されなきゃ、生きて、けない…からだだけでもおれにとっては、愛されてる証なんだよ、セックスはさ」
ずるりとカルマはその場に崩れ落ちた。耐えきれない強すぎる欲求が、殺せんせーに拒まれたと自身が判断した途端、前面に押し出されて、けれど間違いには奥底では気づいているから、苦しかった。ほんとうに。
「カルマくん、まずは深呼吸しましょう。一回ゆっくりと息を吸って、そうです。吐いて…あのね、君はもうわかっているかもしれないけれど、先生はちゃんとあなたを愛していますよ。でも、それは性交渉することで確かめられるものですか?こんな形でだけ確かめられる愛ならば、私は要りません。あまりにひどい話だ。…ほんとうは、わかってるんですよね。」
「っう、うう…」
わかってる、わかってるよ。でも、苦しいんだよ。乾きが、疼きが、…止まらないんだよ。
嗚咽を漏らしていると殺せんせーはため息を吐いて、ぽん、と頭を撫ぜてくれて、それを皮切りにぼたぼた泣き出したカルマを優しく包み込んでくれた。なんだか心がじんわり温まって、ああ、嬉しいんだなと理解した。
「…せんせーは、ずるいね」
苦しそうにはくはくと不規則だった呼吸が落ち着きを取り戻していった。
「カルマくんもいつか本当の愛を知るでしょう。その日まで、その男のことは忘れなさい。…どうしても忘れられない時には、また抱きついてくるといい。前にも言ったでしょう?私は君たちを見殺しにはしないと」
「ん……」
(せんせー、ありがと。)
小っ恥ずかしくて口には出せなくても、殺せんせーに伝わったことは、シマシマ模様の顔でわかった。
「…ふはっ、むかつく!」





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