その他 #思い出の杖の使い道



これも、仕事だから。そう割り切らなければ、心が壊れると思った。もう、心なんて壊れているのに。
「んっ、んぶっ!んんーっ!かはっ、はっ、もう、やめろよっ…!こんなの、間違って、ぇ…っんぅ」
警察騎士は性欲が溜まってるんだよと、発散もなかなか出来ねえしよ、と、上司に言われた。
意味がわからなかった。
自分には当てはまらないし、何故自分に言うのか。
そして、にじり寄るその手は何なのか。考えたくもない。
「…なァ、アベルト…おめえ、綺麗だよなぁ…」
いつの間にか服に手が伸びている。いつの間にか、両腕を、縛られている。
「…ひっ!?な、に…考えてんだよっ!やだぁっ!おっさん!フォルス!助け…っんぶ!?」
唯一自由の効く口で大声を上げようとしたとろで、その口も塞がれる。…最悪の形で。
顔も知らない、名前だけは聞いたことのある。ただそれだけの人間に、口腔を犯されている…?
にわかには信じられず、ああ、これは夢だと思うことにするが、夢がこんなにリアルなものか。こんなぬるっとした感触が、夢で体感できるものか。すぐに冷静な頭が否定する。
「暴れるなよ。お前、気付かなかったと思うが、お前の部屋にはなァ、監視カメラがついてんだよ」
「ーーーー?!?」
何をいっているのか、本気で理解できなかった。監視カメラ?なんのために?考えたくもない。
「お前、調停召喚師の…なんていったっけか、フォルス?と出来てたんだな!ホモかよ!」
ゲラゲラと笑う男の声が遠くなる。
部屋で致した事は何度となくあった。それを全て見られていた…?この男に?
男は絶句するアベルトを無視してつらつらと語り続ける。
「しかもあれよな、健気なこったなぁ!フォルスクンのなら、自分についてるもんでも咥えられるってか?ひひっ!なら俺のも出来るよなぁ!これは上司命令だ。断ったら…ま、頭のいいお前のことだ。分かるだろ?」
満面の笑みを浮かべた男が告げたのは、紛れもない、死刑宣告だった。
「何度も想像してオカズにさせて貰ったよ…本当に、君は綺麗だ…。な…?バラされるのは嫌だよなァ?…もう、分かってんだろ?断るなんて選択肢がないって事くらいはよ。」
そんなことを言われてしまえば、頷く他に道はなかった。
「…俺が、アンタに抱かれれば、その…映像は、消してくれるんだよな?」
「…さあ?それはお前の頑張り次第だよ。」
そう言ったと思ったら、途端に押し倒され、脱がされかけていた衣服を完全に剥がされた。
昨日もフォルスとは、自室でした。その跡が、所々に残っていて、その全てを、この男は知っているのだと思うと、羞恥で顔が燃えるように熱くなった。
「…この噛み跡は、フォルスのかな?…気に食わんね。」
「お、まえに、フォルスの何が分かるんだ…!お前、なんかにっ、ぅあ゛っ!?」
そう睨みつけると、男は不機嫌そうにフォルスのつけた噛み跡の上を噛んだ。
「お前、痛いのが好きなのか?…ああ、そういえば。昨日は、随分マニアックな事をしていたな?はははっ!あの光景、すっごく興奮したぜ?」
「…!見て、たのかよ…ッ」
分かってはいてもやはり見られていたという、具体的な事実を突きつけられると、どうしようもなく恐怖を覚える。
確かに昨日は激しいプレイをした。布で目元を隠し、何も見えない状態でアレコレされた。
普段生意気な口を聞いているアベルトだが、ベッドの中では随分とおとなしい。と言うよりは、完全に主導権がフォルスにある、と言った方がいいのか。
噛まれた鎖骨辺りがじんわりと痛んだ。痛みには慣れているのに。昨日だって同じような事をされたのに。戦闘とは違う痛みに、無理矢理致されていると言う事実に、涙が出た。
「…ふっ、う…うぇ…うぅ…フォルスぅ…助け…っひぁあ!?」
助けを呼ぼうと口を開ければ、愛撫が始まり叫ぶどころか情けない声が漏れるばかりだ。
悔しい。
自分にはフォルスとう恋人がいるのに。顔も知らぬ男にこんな、無体を敷かれるだなんて。
それも、力ではアベルトの方が上だと言うのに、だ。
こんな、偉いだけで鍛えてもいないだらしない身体、直ぐに抵抗して逃げ出せるのに。
「…ふ、ぅぅ…ぁ、ぁあんっ!そこ、ダメだっ!離せっ!」
ボロボロに泣いた。それでも行為は止まらなかった。
あんあん喘ぐ自分の声が遠くなり、もう、どうでもよくなっていった。
けれどフォルスを思うと、抵抗しない自分が許せなくて、でも、抵抗するわけにはいかなくて。
「ふぇ…ひ、ぅう…うぇ…」
子供みたいに泣いた。悔しくて悔しくて、たまらなかった。
そんなところも、男を煽っているということにも気付かないで。
「…あー、やっぱヤリマンはダメだなぁ。昨日もヤったんだもんねぇ、そりゃ緩いのも仕方ない、か、ねっ!」
「ひ、ぐ?!ぅう゛あ!?な、に、やっ、てんだよっ?!」
ずっぷりと入り込んだそれは、ローションでぬるぬるに濡れてはいたものの、全く慣らされていない後孔をギチギチに犯して、アベルトに痛み以外のものを与えない。
それが男の猛ったイチモツだと、理解するのにそう時間はかからなかった。
自分、の、なか、に、フォルス、以外の、モノが、入ってる…?
「やめろおおおっ!やだ、やだ、やめろっ!やめろよおお!!いやああああっ!!!」
ガシガシと強く男の腹を蹴ろうとする。が、思った以上にショックが大きかったせいか力が出ず、更に、男の力が案外強かったせいで、簡単に受け止められてしまった。
顔を近付けられ、瞳は男のにやけた面だけを映した。
抵抗も無駄なのだが、それでも弱々しい抵抗を続けるアベルトに、男のイチモツは更に硬度を増す。
男はアベルトの美しさを愛でていた。
だから、盗撮していて見てしまった情事に、最初は心の底から怒りを覚えたし、フォルスを殺そうとも思った。
しかし、フォルスに組み敷かれているアベルトを見て、非常に興奮を覚えたのも確かで。
「…あ、そうだ。君は知ってるかなあ?非合法に作られた、男の子でも赤ちゃん出来ちゃう薬の存在。…ま、機密事項だし、知るわけないよなぁ!それが、この薬な訳なんだが、そ、れ、を…ココに、入れるぞ。」
もちろん、そんな男でも子供を産めるなどという薬は存在しない。
けれど、アベルトに恐怖を抱かせるには十二分だったようだ。
「な、に…考えてんだよッ?!ひ、ぐぅ、う…!やめっ!やめろっ!入れんじゃねえ!いや、いやっ!フォルス!助け、んぐっ!?」
無理矢理に唇を奪い、拡がりきった孔を更に拡張しながら、薬を入れる。
ただの催淫剤だが、アベルトはそれに耐えられるだろうか。
…答えはNOだ。きっと、絶望の中から芽生える確かな快感に、きっと心を打ち砕かれるのだろう。
「んじゃ、まずは…種付け一発目っ!イくね!」
「…ひ、ぃい゛!や、やめろっ!出すなっ!あかっ、赤ちゃんっ、出来ちゃ…っ!っあ、あ、あ、あああ…うそ、だ…フォルス!フォルスぅ!助け、助けて、俺、おれぇ…男なのに…こんな、野郎に、せーえき、ナカに、こんな、いっぱ…」
瞳に溜まり切った涙が、容量をオーバーし、ぼたぼたと零れ落ちる。
中に出された精を確かに感じながら、絶望の淵に立たされたアベルトは、とにかくフォルスの名を呼び続けた。
その間も男は自分勝手に腰を打ち付ける。鍛え上げられているものの、細い腰をガッチリと掴み、痛みを訴えそうなほどに、強く。
そして、アベルトは気付いてしまった。
だんだんと、快感が色を濃くしていっている、ということに。
「…ひぃ、ん…んんっ…ふ、ぁっ…っく、はっ、…っあぁんっ?!」
耐えてはいたのだ。気付かないふりもしていた。声を出したら、フォルスを裏切ってしまうような気がして。嫌々なんだ。気持ち良くなってしまったら、それは強姦にはならないと、何故か思っていた。
もともと、上の人間や周りの人間に打ち明ける気などなかったが。
男が男に犯されたなんて、笑い話にしかならないから、と。
けれど、突かれる度、態とイイ所を突いてくるものだから、その理性も、最早千切れるところ寸前だった。
ひんひん善がる自分が嫌で、でもそんな嫌なのも、もうどうでもいいと思うほどの快感で。
「…ぁあっ!ひぁああっ!も、許し、て…これ、も、仕事、なんだろ…?も、分かった、からっ!好きにしていい、もう、いい、いつでも、お前に、抱かれて、やるっだからっ、きょ、お、はっ、も、狂っちま、ぁあっ?! 」
男の性欲は果てしなかった。
徹夜明けで疲れ切っていたアベルトが気を失うまで行為は続けられ、当然のように連絡先を押し付け、次に会う日時を指定してきた。
「…フォルス…ごめん…おれ…汚れ、ちまった…。ふ、ぅっ……。子供…おれ…どうしたらいい…?どんな顔で、お前に会えばいい?も、分かんねえよ…助けて、くれよ…」
そのまま、アベルトは項垂れ、とにかく眠りにつこう、眠りにつこうとした。
…けれど、できるはずがなかった。
これからの事、いま、起きた事。
全てがぐちゃぐちゃで、とにかく、逃げたかった。
管理官に聞けば…とか、もっと上の奴に告発すれば…とか、考えたけれど、全て、己の男性性を奪われるものだと、思って、足は遠のいた。
それから、フォルスとは、会っていない。連絡も、取っていない。
ただただ、あの男に抱かれる日々を過ごして。
けれど、こんなのは間違っているとは、ずっと思っていた。
…ずっと、助けて欲しいと、思っていた。…フォルスに。




やっと助けは来た。
「アベルト!!!ごめん!ごめんね、僕、僕っ!気付けなくて!こんなに、君は傷付いていたのにっ!何も、知らずに、笑ってた。忙しいんだろうって…勝手に…!ごめんっ、本当に、ごめん…っ」
けれど、助けに来てくれた時には遅くて、もうアベルトには、抵抗の意思のない、性奴隷と化していた。
「…遅えんだよ、馬鹿野郎…フォルス…フォルスぅ…!」
それでも、フォルスのことは、忘れていなかったし、ずっと、助けを、待っていたんだ。


「そんな薬、存在しませんよ。あったら、大問題です。」
という管理官の言葉に安心して。
案外普通に接してくれる皆に感謝して。
そして、たくさんたくさん泣いて、フォルスに怒って、ようやく笑えるようになったんだ。
幾つかの問題を抱えながらも。


「…ルト、アベルト!」
ふと目を覚ますと、焦ったようなフォルスの顔が眼前に広がる。
そして気づいた。大量の寝汗、見ていた夢。
(クソッ!…また、あの夢かよ…)
毎日夢にうなされては、起き、また少し眠り、うなされる。
そんな日々が後遺症として残った。
フォルスとセックスをしようなんて、もう思えない。
フォルスだけではない、誰にも、身体を触られたくなかった。
辛いのはアベルトだけではないのは分かっていても、苛立ちはつのる。
性欲は溜まって行くものだし、本当なら触りたいのに、触るだけで現れる拒絶反応。
もどかしさが、お互い、溜まり、溜まり、苦しんでいる。


「前にあった、思い出の杖の、逆の使い道。試してみたらどーだ?あいつら、見てるだけで痛々しい。」
シーダの提案に、皆考え込む。
あれは、逆の使い方をしたら、どれだけ危険だか、分かっているから。
けれど、アベルトは大切な仲間で、どうにかしてやりたかった。
だから、賭けに出たのだ。
「では、この思い出の杖を、使う、と?」
「はい。力を、貸していただきたいのですが。…ダメ、ですか?僕の大切な人なんです!その人の心からの笑顔を、取り戻したい…!」
フォルスの必死の説得にも、マネマネ天師は、いい顔はしない。
それはそうだろう。
危険な使い方をする上、うまくその記憶だけを消すことが出来るのかも分からない。本当に賭けだ。
「そうですねぇ…一応、聞いておきますが、あなたたちは、危険な使い方はしないですよね?」
「ったりめーだろーが!」
「…仕方ないですね。どうなっても、責任は負いませんからね?」
そしてーーーーー。



「フォルス!…って、なんだお前も一緒かよ。」
「…なぁーんか、わたしに対する態度、酷くないですかぁ?」
「…ごめん。どうしても引き剥がせなくて…」
「センパイまでわたしを邪魔者扱い!?ぷー!いーですよ!すぴちゃんと遊んで来ます!センパイ達は仲良くどーぞ!」
関係は、元に戻った。
奇跡的に、あの時の記憶だけが消えたのだ。
忌まわしい記憶は大切に保管されている。
いつまでも、解放されることがないように、願う、だけ。
それだけしか、いまのフォルスにはできない。
それが悔しいし、記憶を消す前の状態を、いや、それより前の、犯されることを、自力でなんとかしてあげられなかったことにも後悔している。
助けられなかった数週間を、補うように、これから、でろでろに甘やかしてやろう…とは言っても、その時の記憶がないアベルトが、そう簡単に甘やかされてくれるかも分からない。…というか多分逆に甘やかされるのだろう。
「…なに考えこんでんだよ、らしくねーぞ」
そう笑いながらフォルスの額を小突いたアベルトを、これから一生、守って行こうと思った。



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