その他 #過ち



「清光…もっと力抜いて」
安定との情事も、いつも遠慮なく一方的だ。苦しいばかりのセックスしか、清光は知らない。自身は立ち上がることすらなく、清光がどれだけ苦痛を味わされているのか、如実に表していた。
こんなに手酷く抱いてはいるが、安定は加州清光のことが嫌いだとか、憎いだとか、そんなことは全くなかった。…むしろ、好きだからこその行動だ。
煮えたぎるほどの嫉妬をしながら、勘違いを重ねながら、彼を掻き抱くのが、もう日課と化してしまっていた。
清光のことは好きだが、当然こんな愛情表現の仕方では気づいてくれるはずもなく。
そうした行為を繰り返すたび、清光は安定に嫌われたと嘆く。…悲しいすれ違い。
「あぐ…む、りぃ…!やす、さだぁ!抜いて、いだい…!」
こんなにひどいことをされているのに、こんなに痛いのに、苦しいのに。どうしたって清光は抗うことができないでいた。
…だって、清光の一番近くにいて、一番好きな安定にされていることなのだから。
だから、どんなに辛くとも、あたりが強くとも、日常に、情事の最中に垣間見える優しさだけに、いとも簡単に心は体を裏切っていく。
こんな気持ちよくなんてないセックスにも、耐えられる。
(あー、でも、気持ち悪いな)
清光は時折過去を思い出し、酷く憂鬱な気分になる。
今は今で辛いけれど、あれよりも辛いことはそうそうないだろう。
清光は安定に犯される前から初物ではなかった。
それは悲しい過去。自ら望んで抱かれているわけではもちろんない。
主は清光を誰よりもそばに置き、夜な夜な犯したのだ。
主のことは好きでも、恋愛感情では決してなかったのに。主はあまりにもいじらしい清光の言動に、勘違いを起こしてしまった。

何度となく繰り返される行為の異常性にはすぐに気づいたが、『捨てられるかも』という恐怖が清光を縛り付けていた。
「あるじ、あるじぃ…!捨てないで、あいして…」
愛に飢えた大人になれないこどもは、必死に愛を求めていた。
本当は主のことを愛してなんていなくて、セックスにだって快感はなくて、辛いだけ。形だけ愛してもらおうという、醜い感情で、清光は深く傷ついていた。
そんな時に、主が果てる瞬間に浮かぶのは、昔なじみの刀剣だった。
ツンツンとした普段の様子からは想像もできないほど優しくなる瞬間。不器用なりに清光を捨てないでいてくれる大切な存在。
想いは積ったが、告げることはどうしたってできなかった。
こんな、主の肉便器に成り下がった奴なんて、誰も愛してくれない。…自覚はあった。ただの性欲処理なんだと。
現に、安定は清光を憎いとでも言うように手酷く犯し続けている。
−なにも、知らないまま−

安定は主と清光の関係を知ってしまった。
知ってしまったのは表面上だけで、清光の本音など知る由もなかったが。
知るはずもなければ憶測は深まっていく。
『主が清光を手酷く抱くのは、清光にそう言った性癖があるのではないか』なんていう、恐ろしい勘違いを、してしまっていた。



「加州。」
ある夜、安定は清光の布団にもぐりこんだ。
「なぁ。おれ、ねむい
清光は美肌のためにと22時前には床に就く。その分朝が早いためもう大分眠気が来ているようだった。
反応はいつもよりかなり鈍い。が、
「お前、主と寝てるでしょ」
と安定が言った瞬間ガバッと勢いよく起き上がり、青ざめた顔で安定の方を向いた。だが、うつむいてカタカタと震えるだけだ。
それでも安定は冷静に清光を見つめているのだと、視線が語っている。
次第に呼吸がおかしくなっていき、あまりの動揺からか、過呼吸になってしまったようだった。
ヒュー、ヒューと苦しそうな息を吐きながらうまく呼吸ができなくなった清光はうつむいたままでいた。
あまりの動揺に安定は(ああ、やっぱりばれたくない…か)なんてことを思ったし、同時に本当のことだということにショックを覚えた。
「な、んで、知って…」
ようやく口を開いた清光の声は震えている。依然うつむいたままで、安定の答えを待っている。
「声、抑えられてないよ」
っ!」
あんな声を聞かれていたのか。こんなにも好きな相手に。
現実を受け止めるしかなくなれば、なお一層震えは止まらなくなった。
安定はため息を吐きながら、そんな清光の頬にそっと手をやり、顔を上げさせた。
そして、あの、優しい顔をしたから。清光はホッと表情を和らげた。
安定はさらに優しく「ああいうの好きなら、僕が満たしてあげるよ」と、あまりにも軽やかに言った。
「ちがっ!好きじゃ、ない!」
「何が違うの?本当にいやならあんな仕打ちを受けてもまだ、主にべったりしてるんなんて、おかしいでしょ」
今度は先ほどとは打って変わって有無を言わさぬ冷たい力強い眼と視線がかち割る。
「ヒッ」
思わず喉がなった。
(こんな安定、知らない…)
清光はすでに床についていたため、その衣服はいともたやすく剥ぎ取られていく。
体が抵抗し始めても、どこか『優しく抱いてくれるかも』だとか、『俺のこと好きなのかも』とか言った期待が邪魔をする。
安定はしなやかな、それでも男らしさのある手で清光の全身を弄った。
…いや、弄るなんて可愛いもんじゃない。
なぶられた、といったほうが正しいだろう。乳首は真っ赤になって腫れ上がるほどつねられて、痛すぎて涙が出るほどだ。
先刻までの期待は打ち砕かれ、一気に絶望へと変わる。
「い゛っ!やすさだッ、い、いた…」
そう言って泣きじゃくる清光を、安定は嫉妬心と『清光は痛いのが好き』という勘違いで見なかったことにする。
都合よく現実を捻じ曲げてしまうため、行為は一向に止まらなかった。
「あぐぅ…!そこ、いた…!」
清光自身を強く握り込めばいよいよ耐えられないと言った声が上がる。
だが、安定の正常な判断力は失われてしまっていた。

前日、…というか2時間ほど前まで主にもやはり手酷く抱かれていた清光のナカは、キツイながらに安定のそれを飲み込んだ。
清光は涙を流し続けているし、あそこはずっと萎えっぱなしだった。
それを気にすることはなく、安定はキツキツのナカを味わい、身勝手に果てた。
涙やら何やらでグズグズになった清光のことを、見ないふりして。


結論から言うと、もう戻れないのだと思う。
気づいたところで意地っ張りで天邪鬼な性分からか、素直になれる気はしなかったから。

清光のナカは次第に馴染んでいき、名器と言って遜色ない具合に開発された。
最初より非常に気持ちよくて、ますます虜になった。
清光はどれだけ抱いても快楽を拾えないようだったが。
気になるのは、主との関係だが、未だに続いているらしい。
だが、それでも構わないのだ。
安定とセックスしているとき、清光の心はずっと自分のものだし、安定しか見ていないとわかるから、満足だった。

好きだというには傷つけすぎた。嫌いだというには愛がありすぎた。
それを告げたところで、もう清光は信じてくれないだろう。
主がそうしてしまったように、安定もまた、愛情表現の仕方を間違えた。
ただ、それだけ。…そう、信じてる。
「きよみつ…」
「やすさだぁ」

((痛いよ))




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