暗殺 #パブロフの犬の矯正法



もうやめなよ、というと、
『え、どうしてやめなきゃならないの?』
そんな疑問が浮かんでしまうあたり、が。
異常さや歪みをよく表していると思った。きっとどうにもならない、彼は。
(僕には、どうにもできない?)


「おじさんの、おっきいし好きだよ」
週末、午後6時。彼は毎週おかしくなる。
おかしいのか、それが人間として、生き物として正常な反応なのかは僕にはまだ、わからなかった。

「俺をおかしくしたのは、おじさん、でしょ?」



正常な頭は働いている。まだ、考えることはできている。
午後5時半の俺は、街に繰り出していた。
行き先はもう決まってしまっている。けれど俺の頭はまだ正常なんだ。
…違うんだって、約束があるから、会うんだって。逃れたい。



パブロフの実験から。


チクチクと時計の針は進んで行く。
俺の理性が崩壊するタイマーみたいに、あるいはもう爆弾みたいに、それはそれはゆっくりと進む。

どくん、どくん、どくん。

心臓の音が嫌に大きく聞こえて、タイムリミットを知らせる時報が鳴った。
『××町が午後6時をお知らせします。良い子の皆さんは
「ッ!」
ゾワッとした何かが走って、気づけば俺は走り出している。理性も何もかも、すっかり失って。

(猛犬は、涎を垂らす、)


「カルマくん…」
僕はそれを、見ているしかないの?

「やあ。来たね」
「うん。今日もよろしくね?」
おじさん。
「カルマくんは僕のこと好きかな?」
「おじさんのは、おっきいし好きだよ」
人間としては、どうかな。
ふふ、と俺は微笑んだ。

全ての記憶は曖昧で、溺れているみたいに酸欠になる。

「はっ、はっ…はぁ…」
ギリ、と音がするくらい強く口を閉じても、だんだんと溶けるみたいにだらしなく開いて、涎まで垂らしてしまう。まるで待ちわびているみたいに。

「おじさんのこと好きなんだよね?」
「すきっ、好きだよ、すきぃ…」
ホテルの一室、毎週同じ部屋。なのに、毎週違う景色が俺を悦ばせてくれる。
今日のおじさんは少し意地悪だし、先週はでろでろに甘かった。
性を求める淫らな自分を、カルマはもう認識していなかった。
先ほどの不敵な笑みも、何もかもなかったことにして、快感に溺れるだけの人形、あるいは犬。

「ああカルマくんっ、そのトロ顔、みんなに見せてやりたいっ」
「ふぁ…ふ、んん…?」
とろん、と蕩けた顔を惜しみなく晒して、男の指を性器みたいにちゅう、と吸い、煽る。
「っはや、く…おじさんの、ちょーだい?」
熱を待ち、後ろはきゅうきゅうと、あるいはひくひくと蠢き、耐えられないと訴える。
欲望のまま、我慢できないと男の上に跨って自ら挿入しようとするカルマは、幼さを残すその容姿からは想像できないほどの淫猥さで男の欲望を煽った。
「ッ、は、ぃったぁ…おじしゃ、ふぁ…きもひ…い゛ッ!?」
ゆっくりとした動作で全てを飲み込んだカルマは、ふにゃりと笑った。
とうに理性も何もなくなっていた男の中のもっと深い何かを、カルマはくすぶり、壊してしまったのだと思う。

ズンッ!と下から突かれて、そのまま押し倒されれば、性に錯乱し、飛ぶ。
この瞬間、カルマの中の何かは満たされるのだと思う。
自身は気付かない。
男はなんとなしに気づいていた。
承認欲求だとか、そんな可愛らしいものじゃなくて。
もっとおどろおどろしい沼のような、煮えたぎる何かのような。
精神に異常をきたしてしまったのだろうか?と不安になってしまうほどに、闇は深い。
元々なのか、なんなのか。
男にも、そこまでは理解できなかった。


焦点の定まらない瞳で、カルマは一人帰路につく。
どうしてこうなってしまったんだろう、いつからこうなってしまったんだろう。
毎週毎週呼び出し呼びだされるうち、変わっていった。
快楽へ誘って欲しい一心で、カルマはそこに赴くし、男だって同じだ。
じゃあ?
そいつを殺して、僕がそこにいたら、何か変わってくれるだろうか?



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