暗殺 #彼しか愛せない



「なんでかわかんないけど、好きなんだよね」
カルマはそう言って笑う。彼はその姿があまりに痛々しくて、思わずギュっと抱き寄せた。
好きになってしまえばそこまでで、そのあとはずるずると底のない沼に落ちてく。恋って切ないんだね、とまたカルマが笑う。
抱きしめた温もりに少し寄りかかって、普段なら嫌がるのに、今日は猫のようにすり寄った。
「好き、すき、すきだ。渚くんの事、すき…」
ぐす、と鼻をすする音がする。泣き顔は言い表すことのできないほど歪んで、苦しそうで、…悲しいんだということはよく伝わってきた。
胸元が湿る。カルマの涙が滲んで、ワイシャツにシミを作った。
「俺なんかよりずっと可愛くて、女の子みたいで、それなのに、かっこいいんだ」
不思議だね。
声は依然震えているけれど、カルマはすぐに泣き止んだ。目と目がかち合って、涙で濡れた瞳に目が離せなくなった。
その渚という男の子のことを、彼は知らない。知らないけれど、カルマの思いは、痛いほど伝わって来る。
今日はシないで帰るかな、とほんの少し思ったけれど、カルマはこういう時こそセックスをねだる。
「お願い、忘れたいの」
仕草は中学生とは思えないほど大人びて淫猥で、ぐっとこらえていた理性の箍が外れる音がした。
ビッチ先生の指導のもと、カルマはどんどん男を魅了するようになった。
けれど、関係を続けているのは彼とだけで、他の男はつまらないと、時折愚痴たれた。

いいのか、いいのか。
こんなに傷ついたカルマを、ほんの一瞬だけ癒しても、それは却ってカルマの傷口を広げてしまうのではないのか。
彼は毎回、毎回そう思う。
けれど一瞬でもいいんだと言われれば、もう何も言えなかった。
「明日になったら、もっと好きになってるよ、きっと」
ちゅ、と額にキスをしたら、不意にカルマがつぶやいた。
「だって、渚くんはどんどんかっこよくなるの」
譫言のようにカルマはいった。
相変わらずクーラーのきかない部屋で、熱い行為の中で、溺れているのだろう。
心が酸欠を起こしているのだろう。
本音が、溢れる。零れる。
「おれは、何をしたらいいの?」
「告白もできないよッ!なんにもできない!おれじゃ、ダメなんだ…」
喘ぎながら泣き、心の内を表に出すカルマを、ついに彼は好きになった。
セフレじゃ足りない。
カルマの傷を癒したい。
そう、思った。

「…ごめんなさい」
カルマは行為の後、しおらしく謝ってきた。
あんまりにも可哀想で、目も当てられない。
「いいよ、」
「あのさ…俺と付き合っちゃいなよ。全部吐き出していいよ。すきだ。カルマくん」
鳩が豆鉄砲喰らったみたいに、カルマは目をまん丸くして、その後悲しげに「ごめんね」といった。
「おれ、渚くんしか、愛せない」




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