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好きか嫌いかでいったら、もちろん真琴のことが好きだ。親愛という意味でも、それを通り越して恋愛感情といってもいいくらい、好きだ。
真琴もきっとそうなのだと思う。
それを証明するかのように、セックスは時々した。
真琴は受け入れる側を買って出てくれて、毎回準備をしてくれた。遙はそれをぼんやりと受け入れていただけだった。
何度も挿入するたびに真琴の中はうねる。セックスを重ねるたび、真琴の性別がわからなくなるほどに、それは(遙は経験したことはないが)女性器のようになっていく。
上京しても、なんとなく不定期にセックスは続いていた。やめられない、そんなことはなかったのに、やめてしまったら、恋人じみた関係が終わってしまう。そんな気がして、やめられなかった。
…真琴にとって、遙がどんな関係なのか、遙にはわからなかった。


「まこと…?」
シーツはくしゃくしゃのまま温もりを失っていく。
時々真琴はセックスの後どこかに行ってしまうようになった。
何をしているのかはわからない。きっと、知ってはいけないことなんだろうと、なんとなしに思う。
ただ、切なく、苦しい。そんなことを思う。きっと『そういうこと』なんだろう。
真琴の気持ちなんて読めない。『好きだ』とか、『愛している』だとか、そんな言葉を吐いたこともないんだから、不思議な関係だな、と考えてしまえば疑問符はたくさん浮かんでくるくらいしか、わからない。
遙は真琴が好きだ。真琴もそうであると 遙は思っているが、真琴はどうなんだろうか、とか、なぜ告白もされていない男に今となってはだが、自ら抱かれに来ているのか、とか…。
考え始めたらきりがないほどたくさん、浮かんでくる。
そして、どうして自分のそばを離れていくことがあるのか、とか。
泣きそうになるくらいの不安を抱えている。それくらい遙は真琴が好きなんだろう。
真琴もそうであってほしいと思いながら、しわくちゃのシーツに手を伸ばした。
温もりはやはり、なかった。



真琴はいつだって不安だった。
遙は気持ちを伝えてはくれない。セックスしたきっかけも、今となってはただの気まぐれなんじゃないかと思い始めている。
いつ飽きられるのか、捨てられてしまうんじゃないのか、そんな不安から、無茶をしていた自覚はある。
でも、どうしても、遙のそばに居たかった。
遙が飽きたら、どうしよう、どうしよう。
飽きられないように、もっともっとテクニックを磨きたい。
そんな思いから、過ちを犯していく。


『セックスフレンドでいいから』
遙とつながっていたい。
遙と一緒にいたい。
そんなのは建前だ。本当はずっとそばにいて、『愛してる』とか、『好きだ』だとか、言われたい。
恋人になれたら…。
何度思ったか、わからない。


「おじさん。」
真琴はとあるホテルの一室に来ていた。
この人とは、そんなに多く顔を合わせていない。けれど、擦り寄る真琴の声は猫のように甘ったるかった。
まるで、恋人同士みたいに。
真琴はこういった行為に挑む際、必ずこう言った。
『好きな人がいるんです。』
『愛してるんです』
『捨てられたくないんです』
『だから…』
『どうか、ご教授願います』
と。
畏まった真琴の態度に、男たちは皆、少し困った顔をした。
けれど、この男は手取り足取り、男の喜ばせ方を教えてくれた。
感謝している。それと同時に、遙に申し訳ないとも思う。こんなの、もし遙が、真琴のことを『恋人』と認識してくれていたら、とんでもない裏切り行為だ。
…でも、止められなかった。

「ありがとう、ございました」
行為は終わり、後に残るのは罪悪感だけだった。
愛する遙のためと言って、逃げている自分が、嫌になった。
「頑張ってね」
その優しささえ、痛かった。


欲しい、欲しいよ、ハル。
どうして愛してると言ってくれないの?
俺たちの関係ってなんなの?
ねえ、教えてくれないの?
俺はずっとハルを喜ばせて、ほかの人とセックスして。
それでいいのかな?



温もりが欲しい。
冷たいシーツと、真琴がそばにいないという事実が、虚しい。
愛していると、お前が世界で一番好きだと、なぜ言えないのだろう。
俺たちの関係って、一体なんだ?
なあ、教えてくれないか。
お前は俺が好きなのか?

((もう、わからない))


壊れている。おかしな関係が続いている。
収集がつかない。
お互いが臆病だから。
ただ、それだけ。



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