Free! #bad endしか待っていない



遠い記憶が蘇ることなく、ただ、何がおかしいということにだけは気づいている。
「好きだ」
遙からそう言われた瞬間、ひどい嫌悪感を抱いてしまった。
これまでなんども男に抱かれてきた体。
遙のことはもちろん好きだけれど、こんなに醜い自分を、好きになんてなってほしくなかった。
「ごめんね」
橘真琴は複数の男と関係を持っている。
始まりはわからなかった。嫌悪感を抱くこともなくむしろ、浮遊感が心地よくて、やめられなくなっていた。
でも、遙を相手にすることは、どうしてもできなかった。
親友として、真琴は遙のことを愛している。
それは変わらない。けれど、セックスをする、性の対象には、どうしたってならなかった。気持ち悪かった。
想像しただけで吐き気を催すほどに、現実身のある、『恋愛感情』を、遙や凛などに抱くことはないだろう。今も、これからも、ずっと。
やっぱり、知らない人との割り切った関係の方が、真琴には向いている。
恋なんて知らない。いらない。ただ、浮遊感を、快感だけを求めて。
遙は悲しそうな顔をした。
何も知らない遙は、振られたと、ただ純粋に思っているのだろう。
それすらも痛かった。
(そんなに綺麗じゃないんだよ、俺は。)


++++++




「おじさん、こんばんは」
真琴は定期的に会う人はいない。いつだって相手は変わっていく。
それが真琴のスタイルだった。
初めましてから始まり、さようならで永遠に別れる。
それは相手も了承していることだった。
「まことくん、っていうんだね。かわいい名前だね」
すりすりと太ももを撫でる手つきはいやらしい。すぐにでも行為が始まりそうだ。
否、もう既に行為は始まっているのかもしれない。
真琴と男がホテルに入った瞬間から、真琴の記憶はほとんど飛んでしまうから、いつ行為が始まったかなど、些細なことなのである。
「ん…ん…ふっ…」
真琴のキスはいつまでたっても慣れることはなくて、(記憶が飛んでいるのだから当たり前といえば当たり前なのだが)男の支配感は高まっていく。
男たちを喜ばせる術は、気が付いたら身についていた。
それはきっと、幼少期の、思い出してはならない過去につながっているのだと思う。
週に二、三度行われている性交のせいか、穴は緩んでいる。
いつ突っ込まれてもいいようにできている。
それはとても悲しいことだと、遙は思う。
全てを知っているから、そう思う。



++++


「ハルちゃん、真琴知らない?あの子、昨日から帰ってきてないの」
顔面蒼白の真琴の母は、縋るように遙を見つめている。
遙なら知っているだろうと、信じている。
真琴がいなくなった。
小学校3年生の頃の話だった。
遙は必死に探し、見てはいけないものを見てしまう。
「あ゛あ゛あ゛!いた、痛いよぉ…!も、やめて、お家、帰して…」
泣き叫ぶ真琴がレイプされる様を、遙は動かなくなった体で、ずっと、ずっと見ていた。
血が滴る後孔は、ぎっちりと男の逸物を飲み込んでいる。
ろくに慣らしもしなかったのだろう。
真琴はただただ涙を流しながら、行為が終わることを、誰かが助けに来ることを待っていた。
それなのに、遙は何もしなかった。



+++++


それから、真琴は少しずつ壊れていった。
記憶から抹消されたはずのレイプ経験は、奥底に残っていたのだ。
気持ちよくなるために、今度こそ助けてもらえるように、真琴はいつまでも助けを待っている。
でも、ダメなのだ。
清めて欲しいわけじゃない。
真琴は汚くないんだと、認めて欲しい。ただそれだけだった。
遙のことを好きになることは決してないのだろう。
いつしか交友関係のある人物との性交渉が、ひどく気持ち悪いものに思うようになったから。
現実だから。
遙に抱かれるなんて、親友に抱かれるなんて、日常はどうなってしまうんだろう?
だったら、見ず知らずの男に抱かれる方がよっぽどマシだった。
気持ちいいし、一時だけでも、あの暗闇から逃げることができるのだから。

「なんでだ…なんでだよ…真琴…」
遙は助けたいのに。真琴がそれを拒んでいる。
真琴は助けを求めているのに、遙ではダメだと言っている。
決して交わることなどないのだ。
結局、ハッピーエンドは待っていない。
清められる方法なんて、見つかりゃしない。




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