Free! #一緒でいい、一緒がいい



毎年毎年、なんでこんなに悩まなければならないんだろうか、なんて思いながらも、今年も律儀にわざわざ自分から悩みの種と向きあおうとしている。
そうやって、毎年悩むことが少し楽しいのかも、などと考えるが、すぐにかぶりをふって追いやる。そんなはずは、いや、少しあるのかもしれない。
今日は十一月十六日。なんとなく付き合っている(なんとなく、というか、もう必然だったんじゃないかという感じだ。気が付いたらキスして、弄りあって。そんな関係)真琴の誕生日。
 さて、何をしてやろう。きっと部員全員でパーティはするだろうし、その後家族とも団欒の機会を設けるかもしれない。
(…当日に何かしてやるのは無理だな)
真琴は何をしても喜ぶだろう。遙が真琴の事を思って準備したり、こうやって悩んでいることを察しているからだ。
(つくづくたちが悪いもんだ)
こうして悩んでいるのがちょっと馬鹿らしくなる。でも、真琴が好きだから、愛しているから、毎年こうして悩んでいる。踊らされている感は少しある。
そういえば、とふと思う。真琴とは何度も致してきたが、遙が愛の言葉を吐いたことはあっただろうか。…あまり記憶にない。いつもいつもお互いがっつきすぎて、記憶がないことも多々あるから、あるかもしれないし、ないかもわからない。言うならば泥酔しているような状態で譫言のように言ったくらいだろう。
(これは…まずいんじゃないか?)
いくら真琴が遙を好きで、遙も真琴が好きだということは伝わっていると思う。けど、これは、いくらなんでもまずい気がする。でも、言葉にするのはひどく恥ずかしい。遙はそういうキャラではないし、似合わないだろう、普通、と、思うんだが。…思うんだが、最高のプレゼントになると確信している。
(くっそ、小っ恥ずかしい)
でも、やるしかないんだ。真琴の笑顔が見たいから。遙は固く決意した。少しフライング気味だが、真琴を家に呼んで、最高に恥ずかしい思いをしてやろうじゃないか。悩みは一気に吹き飛び、真琴と愛を確かめあうことを、心から楽しみに思う。
「真琴、今夜ウチに来い。泊まりの準備はしておけよ」
というと真琴は恥ずかしそうに「うん」という。赤らんだ顔は、言ってもいないのに、行為を期待していると丸わかりで、なお一層、愛しい。


「お、じゃまします…」
珍しくしおらしい態度で玄関に現れた真琴は、一向に歩を進めず、中に入ろうとしない。それに焦れた遙が、グイッと腕を掴み、
「部屋、行くぞ」と、無理やり家に上がらせた。

「あ、あのさ…また、するんだろ?」
期待した瞳は潤んでいる。そのままことに運びたい気持ちはものすごくあるのだが、遙は、重い口を開き、「言いたいことがあるんだ」と、つぶやくようにぼそりと言った。
それがいけなかったのか、真琴は今度は、、「もしかして、飽き、ちゃった…?」と、とんでもない勘違いをして(というか遙の言動が真琴を不安にさせているのだが)しまったようで、悲しそうに微笑んだ。

 遙は焦った。こんな態度では、ダメだ!逆効果じゃないか、と。口下手で、不器用な自分に憤りを感じてしまう。それはそれはひどく。
「そうじゃない!顔、あげてくれ。お前の目が見たい。こんな顔、させたくない。」
むにっと頬を掴んで、真琴と顔をあわせる、目を、あわせる。ほのかに薄暗いグリーンの瞳が涙で濡れている。泣かせてしまったのは、自分だ。
計画も台無しになってしまった。
「はる…?」
真琴が遙を見やる。目を見たって、感情は見えない。真琴が心を閉ざしてしまっているような気がして、心が痛んだ。小っ恥ずかしさから、こんなにも真琴を傷つけてしまった。
「違うんだ、俺は、お前を、愛してるんだ。素直に言えなくて、傷つけたよな。…ごめん」
パチリと見開かれた真琴の目は先ほどとは打って変わって、涙がきらめいて見えた。
「そんなお前が、本当に愛おしい。好きだ、好きだ、好きだ…」
「俺はお前がいない未来なんて考えられない。そんなことがあったら、きっと生きてすら、いられない。引っ張ってくれる手が、お前が、必要なんだ。」
言ってやった。思いの丈を全てぶちまけた。真琴は、ひどく驚いた顔をしていた。遙が饒舌に愛を語ること。自分をこんなにも愛してくれていたこと。ずっと不安だったことが、全て解消されて、驚いた後、泣きそうになった。さっきとは違う涙だった。
「…ん。はる、ありがと。俺も、遙の事が好き。愛してる。ほんとだよ?」
「そんなの、最初から知ってる。」
しばらく沈黙が続いた。お互いがお互いへ抱いている感情を確かめ合って、むずがゆさでいっぱいだった。
(でも、こんなも恥ずかしさも、お前が共感してくれるなら、嫌じゃない)

 沈黙を破ったのは真琴だった。はにかみながら、「…俺、準備してきたんだけど…」と、ぼそりと言ったのだ。
今まで、子供のような愛の確かめ方をしていたが、真琴は、望んでいるのだ。遙に抱かれることを、ずっと前から。
「もう、本当に、本当に好きだ…真琴。お前を抱きたい」
とん、と肩に頭を乗せた。体格では叶わないから、包んであげることはできないから、遙は精一杯甘えて見せるのだ。真琴は優しいから、そんな遙も全部受け止めてくれる。不器用な優しさも、愛情も(愛情はいま確かなものになったが)、知っている。

 二人は初夜のように、ベッドに正座し、しばし、又しても沈黙していたが、
「きょ、今日はキス、いっぱいしたい。」
真琴が不意にそんな言葉を紡ぐ。遙としてはすぐにでも本能のまま動きたかったところだが、真琴が望むのなら、そうしてやりたい。
時刻は二十三時十五分。もう少しで、真琴の誕生日だ。それまででろでろに甘やかしてやろう。いや、これからも、ずっと。ずっと、甘いんだ、真琴には。
「ん、わかった。」
ちゅ、ちゅ、とバードキスを送る。次第に真琴が焦れたのか、自ら舌を絡ませてきた。口蓋を舌先で刺激すれば、甘い声が、吐息交じりに聞こえてくる。
遙は興奮してたまらなかった。
「ん、真琴、かわいい」
そう言うと真琴は、ふにゃり、と笑った。それはそれは嬉しそうに。…きっと、大好きな遙に言われているからだ。
こんなガタイのいい男を、『かわいい』と心から言ってくれる遙が愛しい。こんな風に抱かれることに順応してしまっている自分が、時々怖くなるけれど、遙に抱かれるために、進化してきたのだと思えば、それすら、取っ払うことができそうな気がした。
「ハル、も、きす、ばっか、じゃ、耐えらんない」
自分から言っておいてなんだが、準備してきたときからずっと期待していたのだ。もっと、深く愛し合いたい。
「いうのが遅い。俺はずっと我慢してた。…シて、いいんだな?」
「ん…して…?はるのでめちゃくちゃにして…んぁ…っ」
名残惜しいと言わんばかりに離れた舌先から、少し粘り気のある糸が、二人を引き止め、そして次なる行為に向けてプツリと切れた。
きっちり纏っていたカーディガンとYシャツが、無造作にベッドの端に放り投げれる。後でシワになろうが構わなかった。
それほどまでに行為に没頭していたのだろう。
あらわになった胸元には、控えめな飾りが二つ、けれど確かに存在を主張していた。
遙はそれを、優しく撫でる。
我慢できないとは言ったものの、遙のもう一つの計画のためには、もうすこし真琴に我慢してもらわなければ。遙自身も辛いのだが。
「んぁぁ…っ、はるぅ…もっと、もっとぉ…」
もっと、もっとと強請る真琴の声は、ホットチョコレートのように甘ったるい。それ自体は好きではないが、これは別だ。煽られて仕方ない。
「ふぁ!?」
ぎゅ、と飾りをつままれる。開発されきったそこは、強い刺激に、いままでよりもより顕著に快感を拾う。
「これ、好きだろ?」
遙は微笑しながら、ちゅう、とそこを舐め始めた。真琴はもうよだれを垂らしながら、「好き、すきぃ」とうわ言のように快感に、普段から垂れている目を、それに耐えるように歪ませている。
「はやく、はやく、ハルの、ほし、」
泣きじゃくりながら懇願する真琴のあまりの色気にクラクラした。
時刻は十一時五十分。
(そろそろ、いいか。)
「準備、してきたんだろ?」
「うんっ!うんっ!だからぁ、はやく…っ」
ボクサーパンツにはじっとりとシミがついており、何度か軽く射精したようだ。ぴくぴくと震えるそこに手をかける。もうすこし飛んでしまっている真琴は、嬉しそうに抱きついてきた。
「はっぁ、る…」
すでに真琴の痴態によって遙の自身はギンギンに勃起していて、挿入の準備は万端だ。
時刻は十一時五十九分とすこし。五、四、三、二、一…。
「まこと、愛してる…誕生日、おめでとう」
「へ…?ふ、ぁぁあああ?!」
ずぷんっ!と激しい音を立てながら、遙と真琴は一つになった。
正常位で致しているから、相手の顔がよく見える。
喰らい尽くすような遙の目。余裕がないんだと、停止していた思考が動き出した真琴は理解した。
(あ…いつもこんな、だっけ…?はる、)
「ハルぅ、ハルッ!好き、好き!だいしゅきぃ…!」
足を背中に絡ませ、腕もぎゅっと遙の背中を抱きしめ、離さない。内壁もきゅんきゅんと、遙が腰を激しくグラインドするたび締め付ける。身体中が、離したくないと言っているかのように。
「く、ぅ…そんな、締めるな…!出ちまうだろ…!」
「出して、だひて…!俺の中、遙でいっぱいにして…ぁあッ!」
「うっ…く…」
「ひぁああッ!」
遙の精液を中に感じ、たらたらと真琴は精を吐き出す。
充足感に満たされ、今まで味わったことのない、未体験のセックスだった。
お互いがお互いを好きだ、好きだと連呼しながら、愛を確かめながらするセックスがこんなにも気持ちいいなんて、知らなかった。
「はる、最高のプレゼントだったよ。…ありがとう。」
「そこは『愛してる』が、いい…」
ぷいっと横を向く遙はいつもよりも幼い表情で、頬を染めながら、もう一度。
「改めて、誕生日、おめでとう。…愛してる。」
「ん。俺も。」



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